「俺らそんなヤバいことしてたんや」かまいたちも慄く「かまいガチ」のガチ企画 【戸部田誠】

「俺らそんなヤバいことしてたんや」かまいたちも慄く「かまいガチ」のガチ企画 【戸部田誠】

「(番組の演出が)弱い派閥にいる人だと思ってたから、ダメだと思ってた」

かまいたち山内は、「テレビ千鳥」内のドッキリで「かまいガチ」(ともにテレビ朝日)がレギュラー化されることを聞いて、そう笑った。

そんな「かまいガチ」は、2020年のパイロット特番を経て、同年10月にテレ朝の深夜枠「バラバラ大作戦」でレギュラー化されると、翌年4月には"最速"で24時台に昇格。さらにその翌年2022年からは、「スーパーバラバラ大作戦・1部」の枠である23時台へと駆け上がっていった。この歩みは、かまいたちが上京し、全国区で存在感を確立していく過程と重なる。銀シャリ・橋本は、かまいたちについて「勢いすごないですか? 最初、ボルトぐらいの速さやと思ったら、もうF1カーぐらいいってるでしょ?」(『アメトーーク!』2021年3月18日)と評したが、まさに「かまいガチ」は、かまいたちの「勢い」を象徴するような番組だった。

濱家は、この番組の魅力を問われ「チーム感ですね。スタッフさん含め、全員が同じ方向を向いています。現場の楽しさが、見てくれる方にそのまま伝わればいいなって思いますね」(「テレ朝POST」2021年4月23日)と答えており、二人ともが「スタッフさんと波長が合う」とよく口にしている。だから、冒頭に引いたような"イジり"もできたのだろう。

そうした「チーム感」が顕著にあらわれた回がある。それは、2024年5月8日に放送された「リアル謎解き『山内のTシャツにコーヒーこぼれ事件』犯人は誰だ!?」だ。

その前週、「高田純次らと箱根で運試しグルメ温泉旅」という2時間特番が放送された。そのロケの裏で、"事件"が起きていたというのだ。それは山内が着てきた大事なTシャツに、コーヒーをこぼしてできたようなシミがついていたというもの。シャツの裏側にも痕跡があるので、自分が着ていたときについたわけではないはずと山内は主張し、ロケスタッフを集め、こぼした人は名乗り出るように言う。

だが、正直に名乗り出るものはいない。そこから、リアルなミステリードラマのような推理が始まるのだ。スタッフたちも画面に登場して自らの"潔白"や他者への疑いを語る。その様子は、テレビならではのドキュメンタリー性を帯びていて、演者・スタッフが一体となって番組を盛り上げていこうとしている感じがした。

同様に、スタッフ総出の名企画が最近も生まれた。それは2025年9月17日におこなわれた「伊勢旅行選抜会議」。番組5周年の慰労を兼ねて、伊勢旅行に行くことになったが、全員を連れて行くのは、予算的には無理。そこでロケが成立できる最少人数にメンバーを選抜するというのだ。

「P(プロデューサー)は何をしてるの?演出だけでええやん」「2人もいるのか?」という山内の疑問から、複数のプロデューサーがどのような役割分担をしているのか、といった視聴者には見えにくい制作現場の役割分担が次々と明らかになっていく。「めちゃイケ班の生き残り」のディレクターがいることが分かるなど、やはり作り手の「顔」が見えると、より一層面白くなるということを実感した企画だった。

ちょうど「Tシャツにコーヒーこぼれ事件」の頃からか、「かまいガチ」がもう一段、面白さが増したような気がする。番組が「生きている」ような感じがし、毎回見逃せない番組となった。笑える話から怖い話に移行する「でな、話はここからやねん」や、制作スタッフの意図を読み取って予想していく「駆け引き王」など、名企画も続々生まれていった。

そんな中で「この企画、ヤバいよ」と山内が慄いたのが、「あの頃のラブレター歌謡祭」だ。タイトル通り、"あの頃"、つまり学生時代等に実際に本人が書いたラブレターを、勝手に曲に仕上げて聴いて、当時を振り返ってみるという企画。

高校3年生の頃のラブレターを歌にされたさや香・新山は、この企画を振り返ってこう語った。

「めちゃめちゃ好評やったんです。終わってから面白かったってめっちゃ言われたんですけど、足りなかったんですよ。魂の削り方と評判が。めっちゃ言われたんですけど、やや足りなかったくらい魂が削られたんです」

ラブレターを週刊誌に晒された有名人を例に出しながら、そう言う新山の話を聞いて濱家は「俺らそんなヤバいことしてたんや」と笑った。

この企画が秀逸なのは、そのラブレターの文面に合わせて、それっぽい曲のパロディになっていること。しかもその楽曲クオリティが無駄に高いのが逆に面白い。しかも、文面をメロディに合わせやすいように改変や要約することなく、そのままちゃんと使っているのもスゴい。さらに、歌詞テロップも当時の直筆を表示するこだわりよう。青春時代のイタさ、甘酸っぱさ、純心さが、面白に昇華されるヤバい企画だった。

それらの企画が面白いのは、かまいたちの2人が、イジる側になってもイジられる側になっても自在に面白さを生み出せるからだろう。演者やスタッフの"ガチ"な感情を刺激する。そこに漂うかまいたちの2人ならではの"悪さ"と信頼関係が、「かまいガチ」を支えている。

冒頭に「かまいガチ」は、かまいたちの「勢い」を象徴するような番組と書いたが、もはや象徴するのは「勢い」ではない。かまいたちそのものだ。

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