諦めない千鳥が生み出す『テレビ千鳥』の笑い 【戸部田誠】
エンタメ 連載コラム
2025.10.03
「J:COM STREAM」がオトクなのは、「TELASA」も見ることができるということだ。「TELASA」といえば、テレビ朝日の番組を中心とした動画配信サービス。従って、ドラマはもちろん、お笑い系バラエティ番組が充実している。
その代表的番組のひとつが『テレビ千鳥』だ。言うまでもなく、今やバラエティ界を席巻する千鳥の純然なお笑い番組。この番組の企画は、いつもバカバカしくてシンプルなものばかり。それを千鳥の2人や、彼らが信頼する少数の芸人たちがやることで、爆発的な面白さを生み出している。
以前、番組を演出する山本雅一氏に筆者がインタビューした際、『テレビ千鳥』の企画について、次のように話していた。
「まだ誰もやってないことを僕は考えていますね。あと、成立しない企画です。普通の人では成立せんやろみたいなものを千鳥でやってみる」(「マイナビニュース」2024年4月4日)
まさにレギュラー化して初回におこなった「100円だけゲームセンター」(ゲームセンター内で一度だけやるゲームを決める企画)も、「ガマンすず」(広瀬すずに会いたい気持ちを極限まで我慢して最後に対面する企画)も、季節ごとに私服を買うシリーズも、千鳥以外でおこなったら、面白く成立させるのは難しいだろう。だが、2人ならできてしまう。大悟が悪ノリと悪ふざけで脱線し、ノブがその場の可笑しみを的確に一言であらわすツッコミを入れる。もうそれだけで「成立」させてしまうのだ。
「こたつから出とうないんじゃ!!」という、ただただ大悟がこたつに入ったままロケに行きたくないとゴネる企画からは、「ネコか?ノブか?ゲーム」という、その後、企画として独立するゲームも自然発生的に生まれた。芸人がこたつの中に入り、もぞもぞ動いている。「ニャー」と鳴き声がしたかと思えば「クセがスゴい!」やら「麒麟です」といった、その芸人を代表するフレーズが聞こえてくる。果たしてこたつの中から出てくるのは、ネコか、芸人かを当てるという、完全にやっている芸人のさじ加減次第のゲームだ。だが、そのシンプルさ、自由さ故に、その芸人の本質が如実にあらわれるという奥深さがあった。それはまさに『テレビ千鳥』そのものだった。
何より千鳥がスゴいのはスベった空気になっても面白いということだ。そして、その場を笑いにすることを決して諦めない。
名物企画「面白新キャラクターを作ろう!!」では、即興でキャラクターを作らなければならないため、どうしても地獄のような空気になることが少なくない。だが、千鳥の2人はそれを面白がり、なんとか面白に変えようと奮闘し続けるのだ。
そんな「諦めない」姿勢が思わぬ"感動"を生むことになったのが、「テストで100点取りたいんじゃ!!」という企画だ。まともに勉強してこなかったという大悟が小学校の算数の問題に挑戦する企画。さすがに小学1~2年生の算数は簡単にクリアするが、小3の小数と分数の混じった計算で早くもつまずく。
だが、大悟は簡単には投げ出さない。無理やり図解しながら数字の大小を大雑把に理解し、思わぬ方法でその問題の答えを導いたのだ。その姿に対し、ノブが見事にツッコんで表現する。
「阿呆ガリレオ」
その後も、割り算の筆算や分母が合っていない分数の計算などに挑んでいく大悟。もちろん、簡単にはいかないが、同じように時間をかけ、間違っても決して諦めずに少しずつ正解に近づいていく。その姿は感動的ですらあった。
そんな大悟は「なんでテストって時間制限してるんやろう?」と根本的な問題も提起する。時間を制限するから、みんな本質を理解しないまま方程式を覚えてしまうのだと。おそらく企画自体は、大悟が小学校レベルの問題に悪戦苦闘する姿を楽しむというものだったのだろう。しかし、想定をはるかに超える大悟の諦めない心と本質を掴む力によって、まったく違うカラーの企画に変貌していくのだ。
「ちょっともう『100点取りたいんじゃ!!』じゃなくなってきてる。『勉強は面白いんじゃ!!』や!」
決まり切った「成立」が見越されていない自由さと千鳥への信頼があるからこそ、『テレビ千鳥』の企画は生き物のようなダイナミックさがあるのだ。
