もはや、かまいたちの"大切な場所"になっている番組かもしれない、知らんけど 「かまいたちの知らんけど」【戸部田誠】

戸部田誠(てれびのスキマ)

戸部田誠(てれびのスキマ) (ライター)

テレビやお笑いに関する著書を多数執筆しているライターの戸部田誠(てれびのスキマ)が、ローカル番組を中心に、バラエティ番組の魅力を解説する。

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もはや、かまいたちの"大切な場所"になっている番組かもしれない、知らんけど 「かまいたちの知らんけど」【戸部田誠】

人間誰しも"大切な場所"というものがある。

かまいたち・濱家にとってそれは、地元・大阪市東淀川区上新庄のスーパー「イズミヤ」だった。幼い頃から通っていたそこは家族団欒の場所であり、友人たちとの遊び場でもあった。

そのイズミヤが閉店する――。この出来事を受け、濱家が感謝を伝え、別れを告げに行くロケが行われたのが、「かまいたちの知らんけど」(毎日放送)だった。「イズミヤの歌」のメロディに興奮し、化粧品売り場、エスカレーター、玩具屋、ベンチ、そして"世界一うまいポテト"...、濱家が熱っぽく語る思い出はとても愛おしく、誰もが"大切な場所"を失うときに感じる切なさを呼び起こし、大きな共感を集めた。この回を再編集し、閉店当日の密着映像を加えた「特別編」は、ギャラクシー賞の月間賞にも選ばれた。

一方、山内が"大切な場所"としてロケしたのは、4年間通った奈良教育大学の周辺だった。学生時代にバイトしていた服屋を訪ねるが、そこはすでに別の店舗に変わっていた。20年という時間の経過を思えば当然だが、現地の店員にも、さらには地域の理事長に尋ねても、「以前そこに服屋があった」という情報すら見つからない。その"なかったことにされてしまった"感覚が、どこか切ない。

大学時代の友人たちも登場。以前から山内は大学時代モテモテだったと嘯(うそぶ)いていたが、意外にもそれが概ね事実だということが判明する。特に後輩の「山内ファン」は多かったという。恋愛で悩んでいた友人の女性に手渡した手紙も紹介されるが、よく女性たちと遊んでいたことを伺わせる内容だ。悩んでいる女性を励ますための手紙なのに締めはこうだ。

「他の女の子とやりてーーーーーー」

また、締め切りを過ぎた提出物を学生課に持ち込んで逆ギレしたという話はいかにも山内。変わらぬキャラクターがよくわかる。そのままかまいたちの漫才にできそうな話だ。大学卒業後、NSC(吉本総合芸能学院)に進む際、ゼミの教授に進路を伝えると、こんな一言を返されたという。

「君を面白いと思ったことはない」

それに対して山内が返した言葉が、また彼らしい。

「自分より面白い人に会ったことない」

そんなかまいたちの根底にある"エッセンス"のようなものが次々とこぼれ出るのが、「かまいたちの知らんけど」なのだ。

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この番組の人気企画に「ドライブ旅」がある。ゲストを招いて、キャンピングカーなどの中でじっくりトークするというものだ。

これまでマヂカルラブリー、サンドウィッチマン、野々村友紀子、陣内智則、モグライダー、見取り図、笑い飯、小籔千豊といった芸人仲間はもちろん、今田耕司、関根勤、中山秀征、出川哲朗、ヒロミといったレジェンドクラスの芸人、そして後藤真希、伊沢拓司、指原莉乃、佐久間宣行、梅沢富美男、華原朋美、果ては亀田親子まで多種多様なジャンルの人たちと話をしてきた。

たとえば、麒麟・川島明の回では、大阪時代は川島が「やりにくい先輩」だったことが明かされるのと同時に、「奇人」山内の生態も浮き彫りにされる。若手時代からよく知っている二組だからこその会話だ。

また、『ラヴィット!』が始まる前、2月頃が一番嫌だったことや、始まっても夏くらいまではしんどかったといった本音も。さらに、二組の引退感についても赤裸々に語られる。

「一生やり続けていたい」と思う一方で、あまりイジられてこなかった分、年齢を重ねると「扱いに困るやろうな」という川島の自己認識が興味深い。

「俺とバカリズムさんはハゲてもダメだと思う(笑)」

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肩の力が抜けた状態の先輩たちの言葉が聞けるのは、視聴者はもちろん、かまいたちにとっても貴重な場となっているだろう。

この番組では、毎年年明けに、天竺鼠、藤崎マーケット、アキナ、アインシュタインら同期芸人と「同期旅」と題してロケに行くことも恒例になっている。そこでの彼らの実に楽しそうな表情は、印象的で、見ているこちらも自然と楽しくなっていく。

かまいたちにとって「かまいたちの知らんけど」はもはや、現在進行形の"大切な場所"になっているのかもしれない。

思い出をたどり、仲間と語り合い、本音を引き出す――。そんな"旅"の積み重ねが、かまいたちの魅力を自然体で伝えてくれる。

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