藤井聡太王将&豊島将之銀河インタビュー「読み筋公開対局」から見えたトップ棋士の思考プロセス
ドキュメンタリー インタビュー
2026.08.07
トップ棋士は対局中、何を考えているのか――将棋ファンなら一度は抱くそんな疑問に応える特別企画「読み筋公開対局」が8月30日に放送される。対局するのは藤井聡太王将と豊島将之銀河。通常は終局後の感想戦などでしか知ることのできない思考を、一分将棋の対局中にリアルタイムで言葉にする特別ルールで行われた。互いの読みを聞かれないよう、それぞれ別室からオンラインで対局するという前代未聞の試みだ。さらに、一局につき一度だけ読み筋を話さず思考に専念できる「黙秘権」も用意された。対局を終えた二人に、今回の企画について話を聞いた。

――まずは今回の企画を終えた率直な感想を教えてください。
藤井「読み筋を話しながら指すというのは初めてのことで、どういう感じになるのか楽しみではありました。実際にやってみて新鮮に感じましたが、話している分、普段の一分将棋と比べてあっという間でもありました。それを含めて密度が高い時間を過ごせたのかなと思います」
豊島「最初に話をいただいたときは、しゃべりながら指すことに不安もありました。実際に指してみても、思考をまとめる難しさは感じましたが、見てくださる方に楽しんでもらえたらと思います」

――普段の一分将棋と比べて、どれくらい大変でしたか?
藤井「普段なら飛ばす変化も言語化する必要があり、一分将棋としては短く感じました。どれくらいかと言われると、30秒将棋よりは余裕を感じ、30秒将棋と一分将棋の間くらいでしょうか」
豊島「普段から話すのがゆっくりな方ということもあり、30秒将棋くらいに短く感じました」

――解説しながら指しましたが、話す内容について心掛けたことはありましたか?
藤井「中盤以降は際どい局面が続き、なかなか細かいところまで意識が回らないことも多かったかなと思います。普段は無意識のうちに判断していることも多く、特に短い時間だと感覚的な部分に頼っています。今日は自分でも意識していないところまで言語化しながら局面を捉えるようにして、少しでも視聴者の方に伝わればと思いました」
豊島「話すことはどうしても断片的なことになりがちですが、そこは解説の高見(泰地七段)さんを信頼して(笑)。符号だけではなく、大局的にどう局面を捉えているかを、なるべく分かりやすく伝えられればと思いながら指していました」

――今回のルールには、一度だけ読み筋を話さず考慮に専念できる「黙秘権」がありました。どのような場面で使おうと考えていましたか?
藤井「一回しかないということだったので、最終盤で使おうかなというイメージでした」
豊島「間違えると局面の均衡を保てなくなりそうな難しい局面で使おうと思っていました。ただ、つい話し出してしまうので、使うタイミングはなかなか難しかったですね」

――普段の対局で、読みが合うなと思うことや、逆に合わないなと思うことはありますか?
藤井「相手によって読みが合う、合わないの差は結構大きいかなと率直に感じています(笑)。読み筋が合わないとやりづらさはありますが、読んでいない方向へ局面が進んでいくなど、合わないゆえの面白さはあります」
豊島「相手にもよりますし、日によって違うこともあります。もちろん読みが合わないと考え直すことになりますが、それも将棋の醍醐味(だいごみ)なのかなと思います」

――今回の対局では、お互いの読みは合っていましたか?
藤井「こちらの見えていない手を指されて、なるほどと感じることはあったのですが、全体的には重要な局面や急所の変化など、今日に関しては合っているところが多かったのかなと思います」
豊島「同じような読み筋のところもありましたが、指されてみればなるほどという手もありました」

――今回の企画を、解説者などの立場で見てみたいと思う棋士の方はいますか?
藤井「話しながら指すのが大変なのは私自身が実感できたので、他の人がどのように指されるのかは興味があるところです。気になる方は多いですが、斎藤慎太郎八段や岩村凛太朗四段のように、私と同じ詰将棋が好きな方が対局でも詰将棋的な考えを取り入れているのか見ることができたら面白いかなと思います」
豊島「渡辺明九段や糸谷哲郎九段など、感想戦でもいろいろと話してくれて、なおかつ手の見えている棋士はこのルールでも強そうですし、見ていても面白いかなと。逆の意味では、普段感想戦でそれほど話さない人にやってもらうのも新鮮で見てみたいかなと思います」

――最後に、放送を楽しみにしている視聴者へメッセージをお願いします。
藤井「局面が難しくて、結局読みがまとまらないまま指さざるを得ないような、普段の秒読みに近い状況でした。それがより対局者の思考をリアルに伝えられたかとも思いますし、対局者が限られた時間の中でどのように手を選んでいくのかに注目していただければと思います」
豊島「読み筋もそうですが、大局観や形勢判断、そして局面のどこを重要と捉えているかを見て、楽しんでいただければうれしいなと思います」
文/渡部壮大 撮影/永田正雄
【プロフィール】
藤井聡太(ふじい・そうた)
2002年生まれ、愛知県出身。杉本昌隆八段門下。2016年に史上最年少の14歳2カ月でプロ入りし、公式戦29連勝の新記録を樹立。数々の最年少記録を更新し、現在は王将をはじめ複数のタイトルを保持する将棋界の第一人者。
豊島将之(とよしま・まさゆき)
1990年生まれ、愛知県出身。桐山清澄九段門下。2007年にプロ入りし、2018年に初タイトルとなる棋聖を獲得。その後、竜王、名人、王位など複数のタイトルを獲得。緻密な読みと高い受けの技術でトップ棋士の一人として活躍。




