行定勲監督が挑む新たな韓国ドラマの世界――完璧とは言えない「完璧な家族」が魅せるスリラーと家族愛の行方【古家正亨】

誰もその興りを予想できなかったドラマ「冬のソナタ」(2004年)にはじまった日本における韓流ブーム。ですが、実際には2000年の映画『シュリ』や『猟奇的な彼女』(2003年)のヒットによって、韓国エンタメに対する敷居はそれ以前に比べるとはるかに低くなりましたし、2001年の歌手BoAさんの日本デビューによって、ポップカルチャーに対する関心が高まったことは言うまでもないでしょう。

そして、両国の交流が活発になったより大きなきっかけは、2002年のサッカーワールドカップ日韓共催でした。この国際的なビッグイベントの日韓両国での開催は、互いをもっと知ろうという機運につながっていきました。

■日韓共同制作から、日本人監督が韓国ドラマを手掛ける時代へ

そんな日韓交流の一つの形として制作されたのが、日韓共同制作のドラマ「フレンズ」(2002年)。主演は当時"韓国のキムタク(木村拓哉)"と呼ばれ、アイドル的人気を誇っていたウォンビンさんと深田恭子さん。2人が香港で出会い、文化や言葉の壁を乗り越えながら純粋な愛を育んでいく物語は「愛は国境を越えられるのか」というテーマを視聴者に投げかけた作品でした。当時としては画期的な作品でしたが、あれから四半世紀が経とうとしている今、日韓共同で行う映像コンテンツ制作は、新しい次元に入ったと言っていいでしょう。日韓両国でそれぞれの映画やドラマがリメークされ、それぞれのクリエイターが互いの国を往来しながら作品を作り上げることも当たり前になりつつあります。

そういった中、日本人の監督や演出家が韓国ドラマを手掛ける時代が到来しました。2022年には、日本映画界を代表する監督の一人である三池崇史さんが、ディズニープラスのオリジナル韓国ドラマ「コネクト」の監督を務めて注目されました。今日ご紹介するのは、日本人として初めて韓国地上波ドラマの演出を手掛けたことで話題となった「完璧な家族」(2024年)です。

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その演出を手掛けたのが、日本映画界を代表する名匠、行定勲監督です。『GO』(2001年)や『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)といった作品は、韓国でも人気を集めた作品で、日本の映画監督の中でも、韓国内におけるネームバリューはトップクラスと言っていいでしょう。そんな行定監督が、初めて手掛けた韓国ドラマが「完璧な家族」というわけです。

■完璧な日常が崩れ去る......「完璧な家族」のあらすじと豪華キャスト

優秀な弁護士ジニョクとその妻ウンジュのもと、笑顔の絶えない幸福な日々を送る女子高校生ソニ。誰が見ても完璧に見えた家族でしたが、ある日、ソニの前に謎の転校生スヨンが現れ、幸せな日常がゆがみ始めます。そして、ある日起こった殺人事件をきっかけに、これまで隠されていた家族の秘密が徐々に明かされていくことに。実はソニ、同級生のギョンホを殺したと母親に告白するんですね。果たして彼女は、何のため、どんな目的でギョンホを殺めてしまったのでしょうか......。

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出演は、娘のソニ役に「禁婚令 ー朝鮮婚姻禁止令ー」や「半分の半分」でおなじみのパク・ジュヒョンさん。そして、ソニと同じ学校に通う問題児のギョンホ役に「流れ星」で日本でも脚光を浴び、パク・ジュヒョンさんとは「禁婚令 ー朝鮮婚姻禁止令ー」でも共演しているキム・ヨンデさん。そして物語の重要なカギを握る父・弁護士ジニョク役に名バイプレイヤーのキム・ビョンチョルさん、そして本心が見えない妻ウンジュ役にユン・セアさんという、大ヒットドラマ「SKYキャッスル~上流階級の妻たち~」で夫婦を演じた2人が、このドラマで再び夫婦を演じることも話題となりました。

さらに「シークレット・ガーデン」でおなじみの名優ユン・サンヒョンさんが、休業明け初めての出演作品ということで、ミステリアスな男チェ・ヒョンミンを巧みに演じているところも見どころです。「完璧な家族」というタイトルには、どんな思いが込められているのか。"完璧な家族"とは、どういった家族なのか。その答え(の1つ)は、エンディングに用意されています。

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■行定勲監督が語る、韓国ドラマ制作の裏側と"化学反応"

実は、このドラマの日本での初めての放映・配信に合わせて企画された特別番組で、僕は監督の行定勲さんと対談することができて、2時間近くにわたって直接お話を聞くことができたのですが、それは、それは、とても貴重な時間でした。

まず、なぜ監督が韓国ドラマを手掛けることになったのかというと、監督の作品である映画『GO』に影響を受けたという、韓国の映像コンテンツ制作の関係者から、当初は映画の企画が持ち上がったそうなんです。ただ、それが最終的にうまくいかず、ある企画書を渡され、それがOTT(配信プラットフォーム)向けのドラマ作品だったそうで、WEBTOONが原作で、ジャンルはスリラー。

自分自身もこれまで手掛けたことのないジャンルであり、ストーリーもしっかりしているので骨子はある。8話完結で、韓国のOTTは映画関係者・スタッフが制作していることも多く、「情緒が異なるものが交じり合うと、いい意味で"変な(面白い・興味深い)こと"になるんじゃないか。化学反応が生まれるんじゃないか。それであれば、やりがいのある仕事だ(インタビューより)」と思って引き受けたんだそうです。

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■映画的な高貴な画作りと、独特な空気感を生む巨大セット

そして、実際に完成した作品は......"韓国ドラマ"でした。ただ、ところどころ、いつも見ている韓国ドラマとは違ったテイスト、映像美を感じることができるんですね。それはやはり、これまで僕が観てきた行定作品の美学だったわけです。特に、本作は画力のある作品だと思ったのですが、撮影監督がポン・ジュノ監督やイ・チャンドン監督など、韓国映画界の巨匠たちの現場で修行し、アシスタントとして活躍してきた、若手のユ・イルスンさんを起用されたそうです。監督自身も「素晴らしいカメラマンと出会い、彼がいたことで、自分は初めての現場だったにもかかわらず、居心地良く仕事ができた(インタビューより)」と語っています。そんなユ撮影監督との呼吸が、映画的な高貴な画作りに大きく貢献したようです。

このドラマの舞台となるのが、主人公3人が住む一軒家の自宅ですが、何が起こっても不思議ではない独特な雰囲気の空間に映っています。行定監督に伺ったところ、ソウル郊外の坡州(パジュ)にある大きな倉庫に、舞台となる2階建ての家を、実際に建ててしまったそうです。そして、家から見える外の風景は合成だそうで、そのコントラストが、その家の持つ独特な空気を醸し出すことに成功したとのことですが、日本のドラマや映画の場合は、家のシーンの撮影をする際、セットを作るときは、部屋ごとにセットが作られることがほとんどだそうです。

ただその分、カット数が増えて、撮影スケジュールがタイトになってしまう。しかも、この作品は、「この家族の話でもあり、この家の話でもあるので、部屋と部屋の移動の際の俳優さんの動き1つとっても、それがスリラーの要素になると思ったので、1カットで撮れるような空間を作ってほしいとプロデューサーにお願いしたところ、建ててくれた(インタビューより)」そうで、監督は、同じことを日本のプロデューサーにお願いしたら、資金面で「まずNGを出されていたと思います(インタビューより)」と振り返っています。それが独特な緊張感を生み出していたんですね。

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■既視感とミスマッチが織りなす、これまでにない韓国ドラマ

さらにキャスティングに関しても、監督は興味深い話をしてくださいました。このドラマに登場するほとんどの役者さんは、本人自身も、当初は違う役柄を演じることを望んでいたそうです。例えば、主人公チェ・ソニを演じたパク・ジュヒョンさんは、彼女の友人であるイ・スヨン役の方が適役だと感じていたようですし、父親役のキム・ビョンチョルさんは、ユン・サンヒョンさんが演じたチェ・ヒョンミンを演じたかったようです。

しかし監督は、そうではなく、これまで見せたことのないキャラクターを演じてほしかったといいます。その、少しのミスマッチさが、スリラーというジャンル特有の面白さを作り出すことになるのではと、今回のキャスティングについて振り返っていらっしゃいました。確かに、これまでのキム・ビョンチョルさんのイメージであれば、チェ・ヒョンミンを演じていた可能性は高いでしょうし、そのイメージがあると思います。だからこそ、既視感のある韓国ドラマの世界でありながら、観たことのない世界を構築することができたのだと思います。

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「様式美としての韓国ドラマは、すでにその世界は築き上げられていたので、その世界に飛び込むことは、当然、批判も想定していた。でもそれは最終的に勲章になるのではと。そして、実際にやってみたら、韓国ドラマの目指す方向性が分かったんです(インタビューより)」と、行定監督は撮影を振り返りました。ただ、ドラマの場合は、映画と違って、プロデューサーの権限がかなり強く、放送・配信にあたっては、監督の力及ばないところで編集を余儀なくされることもあるそうで、いろいろとご苦労も多かったようです。

当初はOTT向け作品として考えられていたものの、結果的にKBSでの放送が決まったのも、プロデューサーの力があったからとのこと。ただ、1本の韓国ドラマとして観たときに、ただのスリラー、ミステリー、サスペンスにとどまっておらず、その先にある"家族愛"というものが、この作品の核になっていることがわかるはずです。そして、こだわり抜いた映像は、一見の価値アリと断言しておきます。結果、地上波枠で放送されるドラマとして観たとき、かなり映画的な味わいに仕上がっているのは、そういった背景があったんですね。

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行定監督に、また韓国ドラマを撮ってみたいですかと尋ねると「うーん......」と冗談交じりにおっしゃっていましたが、個人的には次の挑戦も期待したいところです。行定監督の韓国ドラマへの挑戦は、韓国ドラマの様式美を賛辞しながらも"そうじゃないだろう"という監督のアンチテーゼ、こだわりが散りばめられた、"行定勲の韓国ドラマ"になっているところに、個人的には、「映像分野の日韓協業における未来」を見たように思いましたね。

古家正亨

古家正亨 (ラジオDJ/イベントMC)

ラジオDJ、イベントMC。 K-POPなどの「韓流」カルチャーを20年以上にわたり日本に紹介してきた古家正亨が、毎月オススメの韓流コンテンツを紹介。

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