工藤静香の姿と懐かしのポップスにあの頃がよみがえる...今こそ見たい森田芳光監督の映画「未来の想い出 Last Christmas」

工藤静香の姿と懐かしのポップスにあの頃がよみがえる...今こそ見たい森田芳光監督の映画「未来の想い出 Last Christmas」

1992年公開の映画「未来の想い出 Last Christmas」は、藤子・F・不二雄のコミックを原作とし、森田芳光が監督と脚本を手掛けた。現在の記憶を持ったまま、人生のリプレイをすることになったふたりの女性の友情と恋を描いている。主人公の漫画家・納戸遊子を清水美砂が演じ、もう一人の主人公・金江銀子には工藤静香が扮した。いわば、Wヒロイン映画で人生のリベンジに挑んでいく物語だ。

売れない漫画家の遊子は出版社に作品を持ち込むが、編集長の宇留沢(橋爪功)から売れっ子作家・シマヤマヒカル(鈴木京香)の作品に似ていると言われ、連載には至らない。一方、OLの銀子は、職場の同僚・杉田(宮川一朗太)と一夜を過ごしたことで結婚に至るが、古い考えの夫からひどい扱いを受けていた。クリスマスの夜、偶然出会った2人は、お互いに今の生活に満足していないことから意気投合し、連絡先を交換する。ところが、2人はほぼ同時に不測の事態で亡くなってしまい、なぜか共に10年前の世界に逆戻り。不本意に終わった人生をやり直すことになるのだった......。

以前の人生の記憶を持っていることで、失敗した場面をやり直したり、お金に貪欲な銀子が前の人生の記憶を生かして株の投資で成功を目指すなど、ストーリーは波乱の展開を見せる。遊子にしても実在するヒット漫画をまねて、実質盗作した作品で売れるのだが、罪の意識にさいなまれることになる。原作コミックでは男性漫画家の設定で、藤子の自伝的な要素も入っているのか、非常に考えさせられる物語だ。

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ただ、森田監督らしいポップな演出が施された点、主人公2人の恋人が登場する恋愛要素も盛り込まれていることで、重苦しい作品になっていない。特に人生が変わるたびに髪型やファッションが劇的に変わる銀子を演じる工藤があまりにもキュートだ。清水が演じる遊子がしっとりした内気で大人しい女性なのに対し、アクティブで積極的な雰囲気の工藤の持ち味が十二分に生かされ、真っ赤なポルシェ911を乗り回す姿も絵になっている。「こんなに魅力的な女優だったのか」と感じる人も少なくないはずだ。

遊子の恋人・夏木寿也には、当時18歳の狂言界のホープ・和泉元彌が起用された。本作が俳優デビュー作で、セリフ回しにぎこちなさはあるものの、何とも言えぬ魅力を醸す。劇中で狂言を披露する場面もあり、終始颯爽としてクールだ。

銀子の恋人は、ファッションデザイナーの卵・倉美タキオ(デビット伊東)。伊東も長身でスタイルが良く画面映えする。工藤とのラブシーンも巧みにこなし、なかなか好演。デザイナーの卵という設定なので、劇中で倉美と銀子が着こなす当時の人気ブランドの衣装も時代を感じさせ、今見ても懐かしくて楽しい。ファッションショーの場面も印象的に挿入されている。

漫画賞パーティーの場面には、石ノ森章太郎、赤塚不二夫、つのだじろう、永井豪ら著名漫画家が出演。ブレイク前の唐沢寿明が一場面のみの端役ながら、抜群のインパクトで登場するのも面白い。なお原作者の藤子・F・不二雄も占い師役で特別出演している。

また、本作には「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」や「平成ガメラ」シリーズで知られる樋口真嗣が、特撮技術監督で参加していることも特筆すべきだろう。本作での特撮描写は夜景のシーンなどわずかではあるが、森田監督も気に入ったらしく、樋口は若手メンバーだけで結果を出せたことで自信がつき、後のキャリアに繋がったという。

さらに本作の魅力は音楽にもある。タイトルにも入り、主題歌でもあるワム!の「ラスト・クリスマス」は、現在もクリスマスソングの定番として広く知られている名曲で、本作でも印象深い。さらに、1980年代を彩ったポップスが多数挿入される。「異邦人」(久保田早紀)、「ガラスのジェネレーション」(佐野元春)、「そして僕は途方に暮れる」(大沢誉志幸)、「タイム・アフター・タイム」(シンディ・ローパー)、「ノックは夜中に」(メン・アット・ワーク)、「レッツ・グルーヴ」(アース・ウィンド&ファイアー)...。曲名を列挙するだけで思わず口ずさみたくなるという人は多いはず。いずれも当時流行した大ヒット曲ばかりで、時代の空気を今に伝えてくれる。これらの懐かしいナンバーを楽しむだけでも、この映画の価値があると言えるかもしれない。

森田芳光監督らしい、ポップで楽しい作品ではあるものの、随所に重要なテーマが内包されている感じがあり、今見ると懐かしさだけでなく、考えさせられる場面も少なくない。工藤静香の生かし方ひとつ取っても、やはり森田監督の手腕にはうならされる。彼が鬼籍に入って早14年。もっともっと森田作品を見たかったと思う人は少なくないはずだ。

文/渡辺敏樹

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