巨匠・ヴィム・ヴェンダース監督と世界的俳優・役所広司のコラボレーションに浸る

巨匠・ヴィム・ヴェンダース監督と世界的俳優・役所広司のコラボレーションに浸る

役所広司主演の映画「PERFECT DAYS」(2023年)が4月6日(日)に日本映画専門チャンネルにて放送される。

同作品は、主演の役所広司が第76回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞に輝いた、ヴィム・ヴェンダース監督の傑作で、東京・渋谷で公衆トイレの清掃員として働く主人公の静かで充実した日常を淡々と綴った人間ドラマ。親日家のドイツの名匠と名優が組み、独身男性の静々とした日常に潜む喜びや悲哀を情感豊かに描き、カンヌで2冠を獲得した。

下町の古びたアパートに住み、東京・渋谷の公衆トイレを丁寧に清掃して巡る中年のトイレ清掃員・平山(役所)は、薄暗いうちに目覚め、毎日同じ手順で身支度を整え、ワゴン車で仕事に出かける。ワゴン車の中で古い曲をカセットテープで聴きながら、渋谷区内の公衆トイレを転々と巡り、隅々まで磨き上げていく。一方、同僚のタカシ(柄本時生)は遅刻する上に、仕事も適当で、いつも「金がない」とぼやいていた。そんなタカシを注意するでもなく、トイレ掃除に精を出す平山。仕事が終わると、銭湯で体を洗い、浅草の地下の大衆食堂で簡単な食事をすませ、布団の中で文庫本を読み、就寝。そんな規則的な日々の中、タカシが突然仕事を辞めたり、姪のニコ(中野有紗)が家出をしたと言って訪ねてくるなど、平穏な毎日に変化が訪れる、というストーリー。

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外国人監督ならではの視点で描かれる日本のすばらしさ

この作品は、街を陰で支える職業、いわば社会の黒子役に位置する男性にフォーカスしているところが一番の柱で、日本で生まれ育ち普通に暮らしていると、つい見過ごしがちな社会の一部を、外国人ならではの視点で切り取っているところが新しい。というのも、親日家のヴェンダース監督が、日本滞在時に接した折り目正しいサービスや公共の場所の清潔さに感銘を受けたことが制作の一つのきっかけとなっており、そこから日本人ならではの責任感の強さや職人気質な特徴を描いているからこそ、日本人では気付きにくい日本人の誇るべき部分、大切にし続けていくべき部分がクローズアップされているのだ。グローバル化が進み、良くも悪くも人間性が画一化していっている昨今、日本が世界に誇るべき部分、世界から見た時の"日本の強み"を、いち日本人として再確認させてくれる、非常に意味のある作品となっている。

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カンヌの男優賞に輝いた役所広司の名演

そして何より、この大きなメッセージを、"毎日を淡々と過ごす"という芝居だけで伝える役所の表現力が圧巻。「役所広司でしょ。そりゃ芝居が上手いのは周知でしょう」と思うなかれ。見れば、想像の3倍はゆうに超えてくる表現力なのだ。役所演じる平山は無口で友人もおらず、ほとんど人と話さないキャラクターで、口数の多いタカシに対しても必要最低限の言葉しか返さず、せりふがほぼない役なのだが、ずっと見ていられる。特に感情的になるわけでもなく、まさに"淡々と"した毎日を送っているだけなのだが、そんな中でも、ふとした小さい楽しみや喜び、落胆、寂寥感など、細やかな心情のゆらぎを繊細かつ情感的に描くことで、無口で人見知りな平山を、視聴者にとって"ある種の雄弁な男性"として演じているからだ。中年男性の変化のない日々を、これほどまで作品世界に没入させるように導く演技力に、抗う暇なく取り込まれてしまうだろう。

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極めてドキュメンタリーに近い作風なのだが、フィクションの一番のネックである"ドキュメンタリーならではのリアルさがないこと"を役所の演技がしっかりと補完しているからこそ成立していると言っても過言ではない。そんな中で平山の身に降り掛かる、タカシの退職やニコとの日々など、彼の"完璧な日々"に少なからず影響を与える事象によって、彼の心情はどう動くのかというところや、役所がどのような変化をつけて演じているのかにも、ぜひ注目していただきたい。そして、ラストは運転する平山のアップのシーンで幕を閉じるのだが、その長めのワンカットにおける役所の表情だけで訴える芝居...!「圧巻」という言葉以外浮かばないため、とりあえず、まず見てほしい。

外国人の巨匠が描くメッセージと、比類なき表現力で雄弁に伝える世界的役者のマリアージュをぜひご堪能あれ。

文/原田健

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