本木雅弘と小泉今日子が32年ぶりの共演シーンを回顧「互いの顔をのぞき合った瞬間に若かりし頃が思い浮かんできました」

本木雅弘と小泉今日子が32年ぶりの共演シーンを回顧「互いの顔をのぞき合った瞬間に若かりし頃が思い浮かんできました」

ドラマ「前略おふくろ様」シリーズ(1975~1977年、日本テレビ系)、ドラマ「北の国から」シリーズ(1981~2002年、フジテレビ系)、ドラマ「やすらぎの郷」(2017年、テレビ朝日系)などを手掛けた巨匠・倉本聰が長年構想し、「どうしても書いておきたかった」と語る渾身の物語を、主演の本木雅弘をはじめ、小泉今日子、中井貴一、石坂浩二、仲村トオル、清水美砂といった豪華キャストが集結して作り上げた映画『海の沈黙』(2024年)が、J:COM STREAMで1月20日(月)より独占配信される。

同作品は、人々の前から姿を消した天才画家が秘めてきた思い、美と芸術への執念、そして忘れられない過去が明らかになる時、至高の美と愛の全貌が描き出される重厚な人間ドラマ。

世界的な画家・田村修三(石坂)の展覧会で、展示作品の1つが贋作(がんさく)であることが発覚。連日、報道が過熱する中、北海道で全身に刺青の入った女性の死体が発見される。この2つの事件の間に浮かび上がったのは、かつて新進気鋭の天才画家と呼ばれるも、ある事件を機に人々の前から姿を消した津山竜次(本木)だった。かつての竜次の恋人で、現在は田村の妻・安奈(小泉)は竜次の消息をたどって北海道へ。互いに「もう会うことはない」と思っていた竜次と安奈は小樽で再会を果たすが、既に竜次の体は大病に蝕まれていた、というストーリー。

今回、倉本作品初出演となる本木と、本木と32年ぶりの共演となった小泉にインタビューを行い、オファーを聞いた時の感想や作品に懸ける思い、演じる上で意識したこと、32年ぶりの共演などについて語ってもらった。

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――オファーを聞いた時の感想は?

本木「私の個人的なイメージにはなりますが、倉本先生は"いまひとつ世の中に馴染み切れない。でも、とても純粋で大切なものを知っている男たち"を描いている作品が多かったので、そういう意味ではちょっと私はタイプとして違うのかなと思っていたので、お声がかかるなんて想像しておらず戸惑いました。また、『倉本先生の最後の映画になるかもしれない』という触れ込みでのオファーでしたので、新参者の自分が?と非常に恐縮しました。襟を正すというか、『覚悟して臨まないと』という気負う気持ちがあり、『逃げたいけど、逃したくない』というような感覚でしたね」

小泉「(倉本作品には)過去にちょっとだけ『優しい時間』(2005年、フジテレビ系)というドラマに出させていただいたことがあって、その後もオファーはいただいていたのですが、なかなかこちらの都合でお受けできないことが続いていて。いつも申し訳ない気持ちがあったので、『今回、やっとリベンジできるかも』という気持ちと、物語にすごく惹かれたこと、そして本木さんは既に決まっていたので『本木さんが竜次役をやられるなら、とてもいい映画になるだろうな』と思いました」

――役作りや演じる上で意識したこと、演じた感想は?

本木「竜次は言葉少なで、"何か頑なな思いを秘めているのだろう"ということは伝わりますけど、彼が何を考えどう人生を歩んできたのか、画壇を追われ、どんな苦悩を抱えているのかというのは、分かるようで見えづらい役でした。脚本上にもそれらがはっきりと書かれているわけではなく、『こういう男であった』という説明を他の演者が語りで明かしていくというスタイルで、自分がカメラの前に立つ段階では全てのムードを背負っていないといけない感じでしたので、そのあたりが気持ち的に追い付かないというような歯がゆさと難しさがありました。

でも、倉本先生はどの作品でもそうらしいのですが、脚本とは別に人物の背景、履歴というのを用意されていて、キャラクターそれぞれの生い立ちから今日に至るまでの様子が具体的なエピソードを含めて書かれているんです。それをギリギリ撮影前にいただけたので、参考資料として脚本に描かれていない時間を埋めていくことができました。役を幅広く理解していると、何かとっさに表現しなくてはならない時や、演技の方向性がどちらのニュアンスかを選ぶ必要がある時にも判断する材料になるので、私としては情報が多い方がいいのですごく助けになりました」

小泉「撮影スケジュールの関係で、本木さんも私も"入念に準備をして"というよりかバタバタと撮影に入ったという感覚で、(プロットから役を自分なりに掘り下げて解釈して、自分の中に役を落とし込むというような時間が十分に取れず)台本を手にするまでは少しの不安があったのですが、(表現すべきこと、伝えたいメッセージなど)素敵なことは全部台本に書いてありました。それは、せりふがないということも含めて物語がきちんと全部台本の中にあるから、『それに従って行けば迷うことなくたどり着けるな』という感覚で臨むことができました。 物語自体、決してせりふが多いわけではないのですが、そういうものって実はすごく楽しめるものなんですよね。今はすごく説明過多なせりふが多い作品が多いじゃないですか。だからこそ、すごく懐かしい気持ちも感じながら物語の世界の中に立っていたという感覚でした」

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――せりふの量に合わせてアップのカットが多用されており、役者の皆さんの表情の演技がひと際、役の心情を雄弁に語られているように感じました。

本木「若松(節朗)監督の持ち味でもあるし、『やはりテレビの黄金時代に活躍された方の安心感のある画作りだな』と思いましたね。これが、ただただマニアックな映像の世界だけで仕上げていくと、雰囲気はいいんだけど観客の間口が広がらないですから」

小泉「撮影でも無駄なカットを撮ることがなかったです。そういう意味でも懐かしさを感じました。あと、個人的にすごくヨーロッパ映画っぽいムードを感じていて、60'sや70'sのフランス映画もアップを多用していた気がしますね」

本木「そうですね。テレビ的というよりむしろフレンチっぽいかも(笑)。冒頭の小泉さんのアップから始まるというところも、すごく映画的だなと感じます」

小泉「冒頭のシーンとかは、自分で勝手に心の中にジャンヌ・モローを置いて演じていました(笑)」

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――お二人の32年ぶりの共演も話題ですが、久しぶりの共演はいかがでしたか?

本木「映画の中での再会のシーンが32年ぶりの共演だったので、その鮮度を保つために、2人とも数日前から小樽にはいたのですが、互いにできるだけ会わないように、会話もしないようにして撮影日を迎えました。小泉さんとは同時代を生きて、かつ実生活でも割と近いエリアに住んでいたので、なんとなく情報は漏れ伝わってきてはいたのですが、わざわざ2人で会うようなことはなかったので、その"対面していない"という状況を大切にして映画にそのまま生かしたいなと。撮影では、実際に互いの顔をのぞき合った瞬間に若かりし頃が思い浮かんできました」

小泉「互いに15、16歳の時を知っているから、若い時に肉眼で見た姿を頭の中に思い描けるんです。それがすごく役に立ちました」

本木「小泉さんとだからこそ、自然とそういう感慨がありましたね。若い頃によく演歌歌手の方の紹介の口上で『苦節15年--』と聞いて、『15年もご苦労されたんだ...』ってあぜんとしていたんですけど...」

小泉「15年とか、ひよっこにしか感じなくなっちゃってる(笑)」

本木「自分たちが簡単に『32年ぶり』とか言っているのが不思議で...(笑)。その"時の厚み"に愛おしさというか、『お互いに頑張ってきたね』と祝福する気持ちもあって」

小泉「それがそのまま役の気持ちにもつながったんですよね。竜次と離れてしまった安奈は、若い頃に素敵だと思ったその価値観のまま、どこかで生きているであろう竜次という存在を、ずっと心のどこかに希望のように持っていたんじゃないかと思うんです」

本木「安奈の中では奥にしまわれていたけれど、いつでも脈打てる状態で眠っていた気持ち。真珠がだんだんと時間をかけて膨らんでいくような塊が、心の中にあったのでしょうね。一方、竜次は竜次で、安奈と別れて諸国を放浪して...という時間を経て、30数年ぶりに再会した時に、きっと、お互いにインパクトのあった関係性がパッと蘇ったんですよね。長い空白の時を超え、目の前にいる安奈は、やっぱり自分の創作意欲に火を付けてくれた人だった。その魅力が今の彼女からもあふれているって確認できたことが、実は何よりもうれしかったんじゃないかなと思いますね」

小泉「実際の私たちもそういうふうに、『あそこに本木さんがいて、今こんなことしているな』ってなんとなくお互い刺激し合っていた40数年だったかなっていう感じがしますね」

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――この作品は「美」をテーマにしていますが、最近「美しい」と感じたエピソードを教えてください。

本木「毎日朝を迎えて、その日の空模様を見ながら過ごす時ですかね。世の中がまだ全面的に動きだしていない朝の空気感というのは、それなりに予定はありつつも、実際どんなことが起こるのか分からない、わくわくする気持ちや微妙な不安も含めて、あらゆる予感に満ちた自分と対峙している感じがして、美しい時間だなと思いますね」

小泉「近所をお散歩することが多いのですが、東京でもマンションの入り口の周りとか結構植物があって、そういうのを目にした時に『あっ、この季節ってこのお花が咲くんだな』とか、雨上がりに外に出た時に、若葉に水滴が乗っているのを見て『美しい。きれい!』と思います。若葉とか大好きで『かわいい~』って触っちゃいますね(笑)」

――最後に配信でご覧になる方々にメッセージをお願いします。

本木「映画って本来、大きなスクリーンで圧倒されるサイズ感で浸ってほしいという思いはありますけれど、楽しみ方はいろいろあるし、何より配信は宝探しのように自分好みの作品を探せるようになっているから、そこに加えていただけて大変ありがたく思います。

今回の作品は、先ほど申し上げた人物背景や履歴が載った公式メモリアルブックというのが出ていまして、そこにシナリオも収録されているんです。それも活用していただければ、多角的に楽しめるんじゃないかなと思います。あと、配信は気になったらすぐにちょっと遡って見直したりできるので、登場人物たちの心情をしっかりと納得しながらストーリーを追える良さがありますね」

小泉「昔はテレビの中に"大人の時間"っていうものがあった気がするんです。子供たちが寝てから、夜11時頃から始まる番組とか。そういう子供が寝た後に大人が楽しむものって今すごく少なくなってきているけど、この映画はあえて"大人が楽しむ時間"にできるような内容だと思うので、好きなお酒とかおつまみを用意して"大人の時間"を楽しんでいただけたらなと思います」

本木「上手いね!」

小泉「上手いんですよ。コンサートとかでも『歌よりMCの方が上手い』って言われるんですから(笑)」

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文/原田健 撮影/中川容邦

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