「スター・トレック」はなぜ60年愛されるのか――映画評論家・町山智浩が語るSFの未来を変えた革新と不変の魅力
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2026.08.20
「宇宙、そこは人類に残された最後の開拓地......」。この印象的なナレーションとともに、1966年に幕を開け、2026年に放送60周年を迎えたSFドラマ『スター・トレック』。半世紀以上にわたり、新たなシリーズや映画を生み出し続けてきた本作は、単なる宇宙冒険ドラマではなく、多様な文化や価値観が共存する未来社会を描いた作品として、世界中のファンを魅了してきた。
異星人との交流、銀河規模の危機、そして乗組員たちの絆――時代ごとの映像技術を取り入れながら進化を続ける一方で、「異なる存在を理解する」という根底のテーマは、現在のシリーズにも受け継がれている。今回は、熱狂的なファンを世界中に生み出し続ける本シリーズの魅力について、幼少期から作品を愛してきた映画評論家・町山智浩氏に語ってもらった。

(C) 2026 CBS Studios Inc. All Rights Reserved.
――町山さんと『スター・トレック』との出会いを教えてください。
「小学1年生の頃、日本では『宇宙大作戦』というタイトルで放送されていた第1作を見たのが最初ですね。はっきり覚えています。その前にも『サンダーバード』など、海外SFドラマはありましたし、日本でも『キャプテンウルトラ』のようなスペースオペラ作品はありました。ただ、『宇宙大作戦』を見て最初に驚いたのは、乗組員の中にアジア人がいたことでした」

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――日系アメリカ人のジョージ・タケイさんが演じたヒカル・スールーですね。
「当時、日本ではまだ『ミスター・カトウ』という名前で呼ばれていました。しかも、彼は物語の中で明確に日本人として描かれていたんです。それが当時としては本当に新鮮でした。『キャプテンウルトラ』にも異星人の仲間は登場しましたが、実写ドラマで、さまざまな民族が協力して未来を作っている姿を見られたことが衝撃でした。僕は父親が韓国人なので、『未来になったら、いろいろな人種の人たちが一緒に働くことが当たり前になるんだ』と思ったんです」

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――海外では、通信士ウフーラが黒人女性の上級士官だったことも大きな意味を持っていました。
「そうですね。当時のアメリカでは、軍隊でも女性の上級職はまだ少ない時代でした。しかもウフーラは、異星文明との最初の接触を担う重要な役割を持っています。政治的な力を持つ黒人女性が未来の宇宙船のクルーとして描かれていたことは、アメリカ社会に大きな衝撃を与えました。演じたニシェル・ニコルズは、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアから『君の役は重要だ』と言われたことでも知られています」

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「さらに、航海士のチェコフがロシア人という設定も画期的でした。当時はアメリカとソビエト連邦が冷戦状態でしたから。国籍や立場を超えて、人類がひとつになった未来を描いたことこそ、『スター・トレック』の革新性だったと思います」

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――スポックも非常に印象的なキャラクターでした。
「存在自体が象徴的でしたね。彼の故郷であるバルカン星は、物質文明から精神文明へ進んだ世界として描かれています。それは当時のアメリカで広がっていた東洋哲学への関心とも重なりました」

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「また、後のシリーズに登場するクリンゴン人も、どこかアジア文化を思わせる要素があります。誇りや一族の名誉を重視する価値観など、日本の武士道にも通じる部分がありますよね。白人中心だった当時のアメリカドラマの中で、異なる文化が存在する未来を描いたことは、とても先進的でした。そして、子ども心に衝撃だったのは『ワープ』という概念です。空間を歪めて光速を超えるという発想を、テレビドラマで描いたこと自体が画期的でした」

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――シリーズが60年続く作品になると、当時から想像していましたか?
「まったく想像していませんでした。日本では何度も放送が打ち切られたり、タイトルが変わったりして、決して恵まれた環境ではなかったですから。ただ、物語は本当に面白かった。『宇宙大作戦』は、カーク船長が毎回女性に好かれるという展開もありました(笑)」

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「それを止めるのがスポックとドクター・マッコイでした。論理を重視するスポックと、感情豊かなマッコイは正反対の存在です。でも最後には、お互いを認め合う。その関係性が人間ドラマとして素晴らしかったんです」

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――現代のエンターテインメントにも大きな影響を与えています。
「『スター・トレック』がなければ、現在のハリウッドの形も違っていたかもしれません。宇宙船のブリッジという限られた空間で、乗組員同士の人間ドラマを描くという発想は非常に革新的でした。『スター・ウォーズ』をはじめ、後のSF作品にも大きな影響を与えています。また、熱狂的なファンが作品を支え、イベントや二次創作などを通じて文化を広げていく"ファンダム"の先駆けとなった作品でもあります。日本のSF作品にも影響は大きく、『宇宙戦艦ヤマト』などにも、『スター・トレック』から受け継がれた要素を見ることができます」

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――『スター・トレック:ディスカバリー』以降の新シリーズについては、どのようにご覧になりますか?
「20世紀は、『新スタートレック』のピカード艦長役を演じたパトリック・スチュアートのように、シリーズをきっかけにスターになる俳優が多くいました。一方で、現在はすでにキャリアを築いた名優たちが出演する場にもなっています。『スター・トレック:ディスカバリー』のミシェル・ヨーや、『スター・トレック:スターフリート・アカデミー』のホリー・ハンターなど、実力派俳優が参加していることも大きな魅力ですね」

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――最後に、これから初めて『スター・トレック』を見る方へメッセージをお願いします。
「これがすべての始まりです。今、皆さんが楽しんでいるアニメや特撮、さまざまなSF作品も、ここから生まれたものがたくさんあります。魅力はキャラクターです。味方だけではなく、敵や異星人まで含めて、それぞれに考え方や背景がある。そして何より、『戦争ではなく対話によって問題を解決しよう』という考え方を一貫して描いていることが素晴らしい。ぜひ、この60周年という機会に見ていただきたいですね」
取材・文/中村実香
【プロフィール】
町山智浩(まちやま・ともひろ)
映画評論家。雑誌編集者を経て映画評論家として活動し、映画の背景にある社会や文化まで掘り下げる独自の視点で人気を集める。少年時代からSF作品に親しみ、『スター・トレック』シリーズにも造詣が深い。著書やラジオ出演など幅広い分野で映画の魅力を発信している。




