俳優IUの真骨頂!Netflixシリーズ「おつかれさま」で見せた圧倒的な演技力

俳優IUの真骨頂!Netflixシリーズ「おつかれさま」で見せた圧倒的な演技力

2008年に15歳で歌手デビューを果たして以来、韓国の「国民の妹」として、そして世界的な歌姫としてトップを走り続けてきたIU(アイユー)。2011年のドラマ「ドリームハイ」で俳優としての第一歩を踏み出してからは、本名のイ・ジウン名義で数々のヒット作に出演し、今や実力派俳優としての地位を不動のものにしている。2026年最大の期待作といわれる「21世紀の大君夫人」にも主演し、注目度がさらに高まるIUだが、そんな彼女のマスターピースともいえるのがNetflixシリーズ「おつかれさま」だ。

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本作は、韓国のゴールデングローブ賞といわれる百想芸術大賞において作品賞を含む4冠を達成するなど、韓国エンターテインメント界において「世紀の傑作」とまで称賛された大ヒット作である。1960年代から2020年代という激動の韓国を舞台に、済州島で生まれたヒロイン・エスンを中心に据え、三世代にわたる家族と女性の物語を全16話で描き切る。総制作費600億ウォンという破格のスケールに加え、「マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜」のキム・ウォンソク監督と「椿の花咲く頃」のイム・サンチュン脚本家がタッグを組んだ本作は、映像美、脚本の深み、そしてIUの圧倒的な演技力が奇跡的な融合を果たした作品だ。

■IUが体現した「母と娘」の一人二役。初挑戦の母親役で見せた鬼気迫る熱演

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本作の最大の注目点は、IUがヒロインのエスンと、その娘であるクムミョンの一人二役を演じ分けたことだ。生活に苦労する海女の母の後ろ姿を見ながら育ったエスンは、「自分は絶対に海女にならない」と決意し、ソウルの大学に行き詩人になるという夢を抱く。そんな気が強い文学少女時代も見どころだが、何といっても見逃せないのはIU初挑戦の母親の演技だ。これまでの積み重ねを感じる熱演を見せる。

母とは違う道に進むことを夢見ながらも、結局は苦労を重ね、パク・ボゴム演じる初恋の人グァンシクと結婚し済州島での暮らしが始まるエスン。やがて3人の子どもの母になるが、末息子に不幸が起きる。IU演じるエスンが、号泣しながら末息子を抱きしめるシーンは、本作の大きな見せ場といえるだろう。

その後の放心状態で過ごす姿、激動の時代に翻弄(ほんろう)されながら家族のために闘う姿でも、IUの鬼気迫る演技が光り、彼女の一挙手一投足から目が離せなくなる。エスン役では母の強さと人間力を感じる演技を見せるIUだが、エスンの娘のクムミョン役では一転、わがままだが心根は優しく涙もろい現代的な女性になりきっている。

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エスンの夢をかなえ、ソウルの大学に通うエリート大学生となるクムミョン。エスンの若かりし頃より生活は楽になったかのように見えるが、クムミョンにはまた別の苦難が待ち構えていた。ソウルで出会った恋人との縁談が進むが、恋人の母にクムミョンの家族は見下され、婚姻を猛烈に反対される。両家族が初顔合わせをする場面は、その象徴的なシーンだ。エスンの貧困の中での涙とは異なる、抗えない現実を前にしたクムミョンの切実な涙に胸が痛くなる。IUが真に迫った演技で画面に引き付ける。

■パク・ボゴムとの至高のケミストリー。菜の花畑の初恋から駆け落ちの情熱まで

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IUの演技をさらに輝かせたのが、一途な青年グァンシクを演じたパク・ボゴムとの化学反応だ。パク・ボゴムといえば爽やかなエリート役の印象が強いが、本作では一変して、口数が少なく不器用な魚屋の息子を泥臭く演じ切った。勝気なエスンに振り回されながらも、彼女だけを静かに見守り続けるグァンシクの姿は、多くの女性ファンの母性本能をくすぐる。

二人の初恋を象徴するシーンとして語り継がれているのが、済州島の広大な菜の花畑で交わされるぎこちないキスシーンだ。また、家族の反対を押し切り、2人で釜山へと駆け落ちするエピソードも見逃せない。高校生の2人が背伸びをして大人として振る舞おうとする初々しさと、互いを守り抜こうとする必死な姿には、思わず胸が熱くなる。

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エスンの気丈さと内側に秘めたもろさを巧みに消化したIUと、彼女のために人生を捧げるグァンシクを熱演したパク・ボゴム。この2人が同じ画面に収まるだけでその場が華やぎ、物語への没入感は極限まで高まっていく。

■豪華俳優陣との共演と、心温まるファミリーヒストリー

エスンとグァンシクのファミリーヒストリーともいえる本作は、苦しみや悲しみばかりでなく、家族の笑いや喜びもたっぷり描かれていくのが魅力だ。現代に繋がるような彼らの子育てエピソードに、心が安らぐことも。家族が幸せに安心して暮らせるよう、済州島の片隅で踏ん張り続ける2人を、思わず応援したくなる。

そのほかIUは、エスンの娘のクムミョン役でも、2人の俳優とのケミストリーで楽しませてくれる。恋人ヨンボム役のイ・ジュニョンと、やがて夫となるチュンソプ役のキム・ソンホだ。本作の一服の清涼剤のようなクムミョンとヨンボムの純情カップルにはほっこりさせられるが、最後の思わぬ展開には涙が止まらなくなるはずだ。一方、チュンソプは少ない出番ながらも、クムミョンが乗るバスを全速力で追いかけて再会を果たすシーンなど、名場面を生み出している。

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また、中年期のエスンを演じたムン・ソリ、グァンシク役のパク・ヘジュンらベテラン俳優との共演も、IUの演技にさらなる深みを与えた。特に、年老いた父グァンシクと心を通わせるシーンでの慈愛に満ちた表情は、本作が単なる恋愛ドラマではなく、壮大なファミリーヒストリーであることを再認識させる。

IUはこの作品を通して、一人の少女が母となり、そしてその血が次世代へと受け継がれていく過程を、全身全霊で演じ抜いた。一人二役、初挑戦の母親役、そして時代ごとの細かな演じ分け。本作で見せた彼女の多様な表情は、まさに俳優としての集大成といえるだろう。名作に出会い、そのキャラクターを完璧に自分のものにする機会は、役者人生においてそう何度もあることではない。済州島の美しい四季とともに描かれる、哀しくも愛おしいエスンとグァンシクの物語。俳優IUの真のすごみを体感したいのであれば、チェックしておきたい一作だ。

文/高山和佳

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