「探偵!ナイトスクープ」で出会った、忘れられない"ミステリー5選" 【戸部田誠】

戸部田誠(てれびのスキマ)

戸部田誠(てれびのスキマ) (ライター)

テレビやお笑いに関する著書を多数執筆しているライターの戸部田誠(てれびのスキマ)が、ローカル番組を中心に、バラエティ番組の魅力を解説する。

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「探偵!ナイトスクープ」で出会った、忘れられない"ミステリー5選" 【戸部田誠】

「探偵!ナイトスクープ」(朝日放送テレビ)。日本でもっとも有名なローカル番組だといっても過言ではないだろう。1988年から現在に至るまで放送され、いわゆる"神回"と評される回は数多い。「レイテ島からのハガキ」「23年間会話のない夫婦」「爆発卵」「マネキンと結婚」「ゾンビvs3姉弟」「ガォーさん」「6歳児のお寺修行」などなど、バカバカしい爆笑必至の回から、涙なしでは見られない感動回まで多種多様で挙げればキリがない。

そんな中で、「自分の店の前の電柱に黄色い紐のような物が括られていて、紐は日に日に増えていて、店の前だけかと思ったらあらゆるところに紐が括ってある。誰が何のために括っているのか調べてください」という、いまや"伝説"回となった、いわゆる「謎のビニール紐」(1992年3月20日)のように、依頼文だけでミステリー小説の題材になりそうな回も少なくない。今回は、そんなミステリー的な依頼の中から、個人的に印象深かった回を5本紹介したい。

近年もっとも話題を集めた依頼といえば、2024年6月21日放送の「生き別れた双子」の回だろう。依頼者は北海道の女性。概要はこうだ。
「私の母は双子で生まれたそうだが、生まれてすぐ養女として別の家に引き取られた。そして20歳を過ぎた頃、たまたま町内に顔も声も体型もそっくりな女性を見つけたそうだ。母は、その女性がおそらく双子だろうと勝手に結論付け、それ以降40年間、彼女と親密なお付き合いを続けている。母と母にそっくりな彼女が本当に双子かどうかの真相は分からないまま、2人は還暦を迎えた。戸籍も確認したが分からなかった。2人は本当に双子なのか?母が元気なうちに真相を知りたい」

探偵のゆりやんレトリィバァが2人に対面すると、その激似具合に即断言。
「双子です。調べなくても!」
5歳のとき、従兄弟の家に遊びに行ったときにお互いに見かけ、「そっくりな人がいる」と認識したそう。年齢も一緒の2人だが、戸籍上は誕生日が異なっている。けれど、喋り方も瓜二つ。好き嫌いまで一緒だという。高校のときに自分が養子であることを知り、20歳のときに電話帳で相手を探し出し、それを機に交流が始まり、以後40年以上の付き合いを続けてきた。

2人とも「自分たちは双子だ」と確信しているが、万が一、違うと分かってしまったら困るため、これまでしっかりとした調査はしてこなかった。しかし今回、ついにDNA鑑定を受ける決意をした。その結果は、決して意外ではなかった。だが、結果を受け取った瞬間の2人の反応は胸を打ち、強く記憶に残るものとなった。

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その少し前、同年4月12日放送の「我が家の車にとても不思議な出来事が起こった」という依頼も"ミステリー"だった。ある日、外出先から戻った依頼者が車のウォッシャー液を補充しようとボンネットを開けると、中にはなんと、ジューシーな「焼き鳥」が置かれていた。しかもまだ食べられそうな状態だったという。一体誰が、何のために?この"怪奇事件"を解決してほしいという依頼だ。

調査にあたったのは、カベポスター・永見探偵。まず車をじっくりと観察。するとフロントガラスとボンネットの間に焼き鳥が入りそうな隙間を発見。しかし、入れようとしてもストッパーのゴムが邪魔して、その場所には入りそうにない。

手がかりを求めて、焼き鳥の出所を近所で聞き込み。やがて「ぼんじり」という種類で、ある店のものと特定される。浮かび上がった"容疑者"は、昨年末に車のオイル交換を頼んだ整備会社の社長だった。

永見が「焼き鳥では何が好きですか?」と詰め寄ると、社長は即答。「ぼんじり」

もうこれは"クロ"だ――と永見は確信するが、社長は笑い飛ばす。やがて判明した"真相"は、意外でありつつも、どこか拍子抜けするような結末だった。「現実って、そういうものかもしれない」と感じさせる結末だった。

こうした、一見奇妙で謎めいているけれど、真相を知ると「ああ、そういうことか」と腑に落ちる――それが『ナイトスクープ』の醍醐味のひとつだ。

2014年6月20日放送の「朝帰りする71歳の母」もその好例である。依頼者はその娘。「実家の母(71歳)が、近所の友人たちと冬は鍋、夏はバーベキューをして楽しんでいるのは知っていたが、毎回朝帰りしてくる。まるでクラブ通いのギャル状態で、5月の連休は連日だった。いったい何をしているのか調べてほしい」という。

71歳の女性が連日のように朝帰りしている。あまり聞いたことがない話で不思議な話だ。見る角度によっては少し背徳的でもあり、不穏さすら感じさせるエピソードだ。
だが調査の結果、真相は驚くほどシンプルだった。彼女たちはただ「七並べ」をしていただけだったのだ。特別な会話があるわけでもない。ただただ黙々と、カードゲームに熱中していた。

この何気ない光景に小説的な奥行きを感じ取ったのが、作家・津村記久子である。筆者のインタビューで、彼女はこの回を一番好きな回に挙げてこう語った。
「(ナイトスクープの)『七並べ』的な世界が書きたいですね。自分がすごく退屈な住宅街を通って仕事に行くのが苦痛で仕方ないときがあって。だから次はいっそその住宅街をモデルにした話を書こうと思ってます。その住宅街で夜中にみんなが起きてて何考えてるかみたいな」(「文春オンライン」2018年8月19日)

そして2021年、発表されたのが、後にドラマ化もされた『つまらない住宅地のすべての家』(双葉社)だった。『ナイトスクープ』の一回の放送が、小説の着想の出発点になることもあるのだ。

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今年5月16日の依頼者はとりわけ奇妙だった。「私はここ2年、毎週のように依頼文を送り続け、今回で遂に100通目となった。しかし、私の依頼は一度も採用されていない。それでも依頼文を送るのは楽しいし、諦めきれない。自分なりに依頼文の改善策を考え、出し続けてきたが、もう何がダメなのか自分では分からなくなってきた。何をどうすれば私の依頼は採用されるのか教えて欲しい」という。これ自体は、番組愛と執念がすごい人というくらいであるが、だがこの「マキノモトコ」という依頼者は、スタッフの間では有名人だった。実はこれまで、何回か依頼が採用寸前までいったことがある。しかし、いざ連絡しても電話には出ず、ショートメッセージにも返信しない――。そもそも「マキノモトコ」は本当に実在するのか?もうこれだけで、昨今流行しているフェイクドキュメンタリーのような味わいがある。果たして結果は、謎は謎のままのほうが面白いと思わせるものだった。それもまた面白い。

一方で最後まで"謎"のままだったのが「四ツ葉のクローバーの声が聞こえる少女」(2012年7月27日)だ。5歳になる娘が不思議な力を持っているという依頼。公園に散歩に出かけると、いつも大好きな四ツ葉のクローバーを探すが、ものの数分でたくさんの四ツ葉のクローバーを手に帰ってくる。なかなか見つけられないものだと思うが、どこに出かけても同じように探してくるという。実際に公園に行ってみると、迷うことなく歩き出すと、「あった」とものの十数秒で見つけてしまう。偶然かもしれないと他の場所に移動しても30秒に1本ほどのスピードで次々と見つけていく。まさに"声"が聞こえているかのように離れたところからでもピンポイントで探し当てている。

別に"トリック"のようなものがあるわけではないだろう。そういうもの――。不思議だが、そうとしか言いようがない、人間の神秘に触れたような回だった。あの少女はいまでもクローバーの"声"が聞こえるのか、とても気になる。

ただ笑えるだけでも、ただ泣けるだけでもない、「ナイトスクープ」には、咀嚼しきれない面白さがある。それがこの番組の大きな魅力なのだ。

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