私ら、なに見てんの?――「なるみ・岡村の過ぎるTV」の濃厚過ぎる魅力 「なるみ・岡村の過ぎるTV」【戸部田誠】

戸部田誠(てれびのスキマ)

戸部田誠(てれびのスキマ) (ライター)

テレビやお笑いに関する著書を多数執筆しているライターの戸部田誠(てれびのスキマ)が、ローカル番組を中心に、バラエティ番組の魅力を解説する。

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私ら、なに見てんの?――「なるみ・岡村の過ぎるTV」の濃厚過ぎる魅力 「なるみ・岡村の過ぎるTV」【戸部田誠】

「私ら、なに見てんの?」

なるみは、「なるみ・岡村の過ぎるTV」でVTRを見ながら唖然としながらつぶやいた。カメラは京都大学の熊野寮の奥深くに"潜入"していた。普段はテレビカメラ絶対NGの場所だ。

熊野寮といえば、1965年に誕生した京大生、約400人が住む学生寮。いわゆる「自治寮」として知られ、学生運動が盛んな時期は、活動家のアジトのひとつだったとも言われている。実際、現在でも壁には、貼り紙だらけ。寮の中には鉄扉があり、警察の家宅捜索時に壊されそうになった跡が生々しく残っている。

近年でもたびたび、家宅捜索は行われており、それに対して寮生が「熊野寮と世間を分断させていくためのキャンペーンとして、過剰に来てるんじゃないか」と主張しているときに、なるみは冒頭の感想を発した。

ちなみに、熊野寮は学生にとって居心地が良すぎるため、9回生や10回生も少なくないという。

なんともディープ過ぎるVTRだ。まさにそれが、「なるみ・岡村の過ぎるTV」の魅力のひとつ。他にも、「三ツ寺会館」という地上4階、地下1階の雑居ビルに"潜入"したこともあった。壁を埋め尽くす落書き、むき出しの電線、「小便・嘔吐禁止」と書かれた貼り紙――。そんな不気味過ぎるスポットを明る過ぎるフースーヤがリポートする企画だった。

もちろん、そんな"硬派"な企画ばかりではない。

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(C)ABCテレビ

むしろ、「いつか関西に住みたい」という岡村隆史のために「岡村に住んでほし過ぎる街」を紹介するといった、柔らかい企画のほうが多い。けれど、その内容はまたディープ。阿倍野、姫路、明石、寝屋川、吹田、伊丹、箕面、豊中――。関西圏の人以外には馴染みの薄い街にスポットを当て、地元民しか知らない情報を丹念に掘り起こしていく。

たとえば、新今宮を特集した回。北側には新世界、南側には西成エリアがあり、関西人ならずとも「怖い街」というイメージのある地域だ。なにしろ「居酒屋で覚醒剤を売るな!」という看板があるほど。しかし、街は今、急速に変わりつつある。街もきれいになり、若い女性が一人で来ても安心な街になっているという。そういった意外な事実が知れるのも面白い。

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(C)ABCテレビ

2031年のなにわ筋線開通に向け、街の再開発も進行中だ。番組では「新今宮に欲しい施設」を街頭インタビューで募り、「新今宮都市計画」を勝手に策定。それを知事にぶつけるという無茶な展開に。

出てきた意見は、健康プール、歌えるステージ、格闘技リング...、までは分かる。しかし、飲酒遊園地、レモンサワーが出てくる蛇口、すべてのギャンブルが詰まった場所――。

やはり新今宮、健在である。

そんな番組の面白さを支えているのは、間違いなくMCを務めるなるみと岡村隆史の二人だろう。年下だが芸歴では先輩にあたるなるみ(矢部浩之の兄・矢部美幸と同期)と後輩の岡村。この関係性が、番組全体の空気感を絶妙なものにしている。二人の間には、長年の付き合いで培われたであろう阿吽(あうん)の呼吸と信頼関係が確かに存在する。

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(C)ABCテレビ

たとえば「お買い物シリーズ」と題されたロケ企画。大人のオシャレに興味津々な岡村とすっちーが「イケオジ」を目指し、「グランフロント大阪」で服を買うというものだ。

しかし、慣れない二人はモジモジして高級店に入れない。少しでもスタッフが笑っているのを見つけると、バカにされているという猜疑心で悪態をついてしまう。そんな岡村になるみはビシッと釘を刺す。

「仲間にイラつく」のが悪い癖だと。

まるで姉弟のよう。この「ちょうど良過ぎる」バランスのやりとりこそ、番組の最大の魅力だろう。

「なるみ・岡村の過ぎるTV」は、「◯◯過ぎる」というシンプルながら強力なコンセプトを軸に、二人の絶妙な掛け合い、関西のディープな魅力、多彩なゲストとの化学反応が噛み合って、唯一無二の面白さを生み出している。そこには、関西ローカルならではの熱量と親密さがある。

地元民には「あるある!」と膝を打つ再発見を、他地域の人には未知なる文化への驚きと新鮮な笑いを届けてくれる、そんな濃厚過ぎる番組なのだ。

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