町田樹がフィギュアスケートの新たな見方を提案する新番組「芸術性とは何なのか、分かりやすく伝えたい」
エンタメ TV初インタビュー
2024.09.25
9月28日(土)よりテレ朝チャンネル2でスタートする「町田樹のフィギュアスケート深層考察」。町田樹が研究者としての視点を活かしながら、分かりやすく&マニアックにフィギュアスケートの「新たな見方」を提案してくれる画期的な番組だ。今回、町田樹さん本人を直撃し、番組の見どころと意気込みを語ってもらった。
――まずは、番組がスタートするに至った経緯を教えてください。
グランプリ(以下、GP)シリーズの解説にあたって、アカデミックに選手たちの魅力を伝えることを常に心がけていました。それで、地上波中継と同時に、オンデマンドの配信用に、フィギュアスケートをより奥深く見るためのヒントを提供するコンテンツを作ったんです。それが視聴者の皆様にご好評をいただき、今回の番組制作に繋がりました。今年の初めに正式なオファーをいただき、半年ほどかけて構想を練りあげ、晴れてスタートに至ったという次第です。見どころは大きく二つ。まず、テレビ朝日はGPシリーズをはじめ20年以上もフィギュアスケート中継をしてきたので、豊富なアーカイブ映像を有している。つまり、貴重なお宝映像の宝庫なのです。ここまでフィギュアスケートを追ってきた放送局はほかにないので、私のアカデミックな解説と共に、貴重な映像を再び世に出すことに意味がある。もう一点は、フィギュアスケートを学術的に深く掘り下げることの意義。私の研究者としての視点を生かしながら、歴史を振り返りつつ学術的な観点でフィギュアスケートの芸術性を追求します。「フィギュアを題材とする教養番組」というコンセプトも醍醐味だと思っています。研究者としての私の視点と、テレビ朝日の取材力と貴重な映像が掛け合わさり、極めて貴重な番組になるという自信があります。
――非常に興味深いですが、ちょっと難しい内容になりそうな......。
その心配はありません。研究に専念する間のブランクを経て、2018年頃にメディアに出るようになったのですが、当時は研究者としての立場を意識するあまり、つい硬い言い回しになってしまい、反省点が多々ありました。それで、自分の学術的な解説をいかに分かりやすく、柔らかい表現で視聴者の皆様に伝えるのか、そんな技術をしっかり磨いてきたつもりです。5~6年かけてメディアでの経験値を積み上げてきたので、それを生かしながら、この番組ではアカデミックな深い内容を、よりキャッチーに分かりやすく伝えたいと思っていますので。じつは私は、テレビマンの方々とコラボレーションすることが大好きなんです。SNS全盛の世の中で、誰もがコンテンツを配信できるようになりましたが、だからこそ、テレビのプロフェッショナルたちの技術や情熱に目を向けるべきだと思います。この番組の制作に直接かかわっているスタッフだけで20人もいます。さらに企画やリサーチなどのスタッフもいますから、総勢数十人にも及ぶ。そして全員がプロフェッショナルなのですね。私は研究者としての矜持を持ってこの番組に本気で臨んでいるし、彼らも同様にプロとして技術と情熱を全力で注いでくれている。それらがすべて掛け合わさった時に、素晴らしいコンテンツができると私は信じています。込められたエネルギーの総量が絶対的に違う。テレビ朝日にはフィギュアスケートに対する情熱を持っている方が大勢いますからね。そんな方々と協働できることは私も嬉しい。この番組は、テレビのプロと一緒に私が勝負を賭けられるコンテンツとして自信を持って世に出したいと思っています。
――どんな人たちに観てほしいですか。
目の肥えたファンの方にはもちろん楽しんでいただけるはず。ただ、現状のフィギュアスケートは衰退傾向にあることも事実で、新しいファンの獲得が必要だと感じています。ビギナーのファンの方にも「こんな楽しみがあったのか」という発見を届けたい。ディープな内容ではありますが、決してファンでなければ理解できない番組ではありません。フィギュアをまったく見たことがないという方が見ても、必ず楽しめる内容です。中継では数分間の間に目まぐるしい展開がありますから、芸術性を深く解説する時間がありません。「芸術性の高い演技でしたね」と一言言うのが精いっぱいなのですが、ではその「芸術性」とはどういうことなのか。本当はすごく深いことのはずで、それを明らかにしていくのがこの番組なのです。
――第1回は、インスブルック五輪王者のジョン・カリーを取りあげるんですよね。
『フィギュアの王、ジョン・カリー』というドキュメンタリー映画に、学術協力で参加したのですが、そのオファーを受けるまで、彼のことは名前を知っている程度でした。しかし、カリーこそフィギュア史上でも極めて重要な人物だと察知し、アカデミックに研究したいと思ったのです。ここ3年間ほど、海外調査も含めてジョン・カリーに関するあらゆる資料を集めて研究してきました。その成果も、この番組で存分に生かされています。世界でもここまでジョン・カリーを深掘りした番組は過去になかったはず。スポーツにおいては、歴史というものが軽視されがちで、記録が上書きされて、そのたびに過去が薄れてしまう傾向がある。しかし、フィギュアスケートの歴史を紐解くことで、現在の選手が行う演技の源流がわかるんです。カリーは、まさにフィギュアとバレエをフュージョンさせた人で、功績は大きい。バレエ的なフィギュアスケートの本質や重要性が、カリーを取り上げることで語ることができます。
――では、最後にあらためて番組の見どころを教えてください。
三上大樹アナウンサーと共にスタジオでの語りのパートもあるし、スタジオで私がバレエのデモンストレーションを行いながら解説する場面も見どころかと思います。絵面が結構変わるので、そんな意味でも見ごたえのある番組になっていると自負していますが、その分ナビゲーターである私はなかなか大変です(笑)。研究者としてナビゲートしつつ、フィギュア解説者であり、デモンストレーターでもあると。私のプレゼンテーション力のすべてを注ぎ込んでいるので、120%の力で臨んでいます。フィギュアスケートはもちろん、舞踊や新体操など、芸術的スポーツを愛するすべての人に届けたい。私にとってもこんな番組は初めてなので、これからもぜひ注目してほしいですね!
取材・文/渡辺敏樹 撮影/皆藤健治