声優・早見沙織インタビュー#1「『その多面的な表情すべてが、私らしい音楽』アーティスト活動10周年を振り返って」

声優・早見沙織インタビュー#1「『その多面的な表情すべてが、私らしい音楽』アーティスト活動10周年を振り返って」

「SPY×FAMILY」のヨル・フォージャー役、「鬼滅の刃」の胡蝶しのぶ役、「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」のリュー・リオン役など、数々の人気キャラクターを演じ、その魅力を引き出してきた声優・早見沙織さん。歌手としての顔も持ち、2025年にはアーティスト活動10周年を迎えます。節目を迎えたいま、彼女はアーティストとしてどんな気持ちで音楽に向き合い、声優としてどんな気持ちで役に向き合っているのか。このインタビューでは全3回にわたって、早見沙織さんの音楽活動と声優の仕事に対する思い、そして人となりをひもといていきます。

■アーティスト活動10周年を振り返って

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――2025年にアーティスト活動10周年を迎えた早見さん。あらためて10年間を振り返ってみて、いまどんなことを感じていますか?

「『10年間』って言葉で聞いたり、文字で見たりするとかなり大きな感じがしていて、その数字に自分でも驚くくらい......なんですけど本当に、試行錯誤を繰り返していろいろなことに挑戦しながら駆け抜けた日々だったので『もう10年か......』って、体感的にはあっという間だった気もします。でも、2015年のデビュー当時のことを思い返すと、やっぱりすごく前の出来事のような気がするので、時間の流れって不思議ですよね」

――長いようで短い、10年だったと。

「そうですね。たとえば音楽活動では、自分で曲をつくったり、楽曲の方向性を決めたり、ライブの構成を考えたり、声優のそれとはまた違ったクリエイションがあるんですよね。それに、フェスやライブなどで、直接お客さまの前で歌を届ける機会もあって。そうした経験の中で声優としての活動とはまた違った感覚だったり、難しさっていうのはつねに感じていましたけれども、同時にその面白さ、楽しさにも触れてこれた。だからこそ、長いようで短い10年と感じているのかもしれません」

――とくにご自身で作詞・作曲も多くされているので、自分の内面や人間性としっかり向き合わなければいけない機会も多かったのではないでしょうか?

「まさしくおっしゃるとおりで、曲をつくるときって自分の内側と外側、その両方の世界をより深く掘って行かなければ、納得いくものができあがってこないんです。曲をつくるときだけ『ここで集中して仕上げよう!』という気持ちでいいものができあがるわけではないので、日々インプットとアウトプットを積み重ねながら、自分の中にある"創作の泉"に水を注ぎ続けていい塩梅に保っておかなければいけない。声優の仕事をしたり、日々の暮らしを送る中でも、つねに自分の中にあるそんな"創作の泉"に意識を向け続けた10年間でもあったのかな、って思っています」

――そんな10年間の集大成として9月21日(土)に、ライブ「HAYAPOP」を開催されます。このタイトルにはどんな思いを込めたんでしょうか?

「10周年記念のライブということで、私の中ではアニバーサリーであると同時に、これまでをぎゅっと濃縮還元したような1日にしたいと思っているんです。そこであらためてこの10年間を振り返ってみると、ものすごくジャンルレスで幅広い音楽に関わらせていただいたな、って感じていて。クールなロック調の楽曲もあれば、可愛らしくてメロウな楽曲もある。でも、そのどれか一面だけが私らしさなんじゃなくて、その多面的な表情のすべてが『早見沙織の音楽』だと思ったんですよね。

それをくくれるような言葉がないかっていって、ライブタイトルはまた本当にたくさん考えました。いろいろ案を出した結果、最終的には日本のポップスが『J-POP』、韓国のポップスが『K-POP』と言われるように、早見沙織の音楽、ポップスというところで『HAYAPOP』という言葉にたどりついて。だから、本当にこれまで私がやってきたいろいろな要素すべてを詰め込んで、そんな一日をみなさんと一緒に楽しめたらいいな、という思いを込めたタイトルでもあるんです」

――そんな、これまでの10年間の思いをぎゅっと凝縮したライブ「HAYAPOP」、いまの意気込みをお聞かせいただけますか?

「何よりもまず、この10年間の中で私の音楽活動に触れてくださったみなさんがいたから、ようやくたどり着けた場所だと思うので、ライブではその感謝も込めて一人ひとりに直接、早見沙織の音楽をお届けできたらいいな、と考えています。音楽って、一人ひとりが思い浮かべる曲のイメージだったり、思い入れや思い出もまったく違うものだと思うので、その一人ひとりに向けて私が歌っていくような、そんなライブにできたらいいなと思います」

■ライブタイトルが「セメ」になった理由

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――今年の3月に開催していたライブは、その名も「セメ」。このライブは早見さんにとって、どんな位置付けのライブだったんでしょうか?

「ライブの開催時期が3月ということで、5月後半からアーティスト10周年の活動が本格的にスタートする直前のライブだったんですね。それを踏まえて『どんなライブにしたいんだろう』と考えたときに、10周年に向けてギアを上げていくような......より加速して、よりエネルギーを強くしていくような起点になるライブにしたいなって思ったんです。だから、あのライブの時点では10周年ということもすごく意識していて」

――「セメ」というライブタイトルも独創的ですよね。わかりやすいし、伝わってきます。

「でも、じつはあのタイトルは事前に『どうしよう』と話しているときに、会議で使っていたいわゆる『仮タイトル』だったんですよ(笑)」

――え、そうなんですか...!?

「スタッフの方々と、事前の打ち合わせを始めて早々に、私から『10周年に向けて、守りというよりは攻めの姿勢でつくるライブにしたい』という話をしたんです。そしたら、そこから『じゃあ「セメライブ(仮)」ですね』という話になり(笑)。最終的にタイトルを決める段階でもう一度話し合ったときに、色々なほかのタイトル案も出たんです。すごくかっこいい英語のタイトルとか、あえて漢字を使うとか。いろいろな案が出たんですけど、やっぱり『「セメ」が一番ド直球でわかりやすいし、伝わりやすいね』という話になって、決まりました」

――決まることで、よりやることが明確になりそうなタイトルですよね。

「そうなんですよ!じつは『セメ』はライブハウス中心の開催だったんですが、バンマスの渡辺拓也さんはじめ、メンバーのみなさんとお話して『既存曲のバンドアレンジを入れて行こう』っていう話をしていたんです。それが、いままでにない攻めた感じのバンドアレンジだったり、ピアノでの弾き語りをバンド用にがらっと変化させたり、これまでまったく経験したことのないやり方が多くて。そういう挑戦ができたのも『セメ』というタイトルがあったからなんだろうな、って思います」

――めちゃくちゃいいですね! ちなみに「セメ」のライブ中の出来事で、今だから話せる舞台裏エピソードはありますか?

「全然『攻めの姿勢』とは関係ないんですが、豊洲PITでの最終公演のときに、丁寧に時間をかけてリハーサルをしていたらお昼ごはんを食べるのをすっかり忘れてしまったんです。そのままメイクして開演15分前になった頃に、突然体が『空腹だぞ!』ということを思い出したらしくて、急にお腹が空いてきちゃったんです。でも、このままライブが始まってしまったら、絶対に途中でエネルギー切れになるだろうなって思ったので『何かないですか!?』って急いでスタッフさんに伺って。そうしたら『カップの豚汁ならすぐ作れます!』って(笑)」

――ライブの15分前に食べるようなものじゃないのは、なんとなくわかります(笑)。

「そうですよね(笑)。でも、タイミング的にそんなことも言っていられないので『じゃあ豚汁いただきます!』と言って、開演直前の10分前に豚汁を急いで飲んでライブを最後までやり切ったという......(笑)。あんな経験ははじめてでした」

――「ライブぎりぎりで豚汁食べた人選手権」があったら、間違いなく早見さんがレコードホルダーですね(笑)。

「かもしれません(笑)」

■胸を締め付けられるような激情を抱えて|『テレビアニメ「鬼滅の刃」』胡蝶しのぶ

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――7月には『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』の第一章が公開される「鬼滅の刃」関連作品では、蟲柱・胡蝶しのぶ役を務められている早見さん。胡蝶しのぶ、という人物のことはどんなふうに捉えていますか?

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「すごくまっすぐな人なんですけど、同時に『不器用なのかな......』と思えるくらい熱い感情を内に持っていて、それが少し外にも漏れ出している感じがしますよね。その原因は、なんといっても鬼に最愛の姉を殺されたからですよね。その怒りをずっと内側に、彼女は抱えながら戦っているんです。

姉のカナエは、すごく穏やかでやさしくてやわらかい、だけど奥には強い芯を持っている人で、しのぶとはまったくタイプが違う。そしてしのぶは、その姉の思いや振る舞いを、自分の中に取り込んで、生きている。

だから表面的には笑顔だし、一見すると穏やかでやさしくてみんなを包み込むような姿を見せる。だけどそれは、あくまで姉の振る舞いをしているのであって、本当の心の奥底には『絶対に許さない』という鬼に対する憎悪が隠れている。それが、胡蝶しのぶなのかなって思います」

――しのぶを見ていると、ときに痛々しさすら感じることがあります。

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「そう、本当にまっすぐすぎるぐらいまっすぐなんですよね。姉のカナエが亡くなるとき、『鬼殺隊を辞めなさい。普通の女の子の幸せを手に生きてほしい』という言葉を受け取って、しのぶ自身は姉の気持ちは重々わかってる。でも、どう言われようとも姉の仇は自分がとると心に決めていて、たとえ自分が不利だとわかっていてもそれをやり遂げる覚悟を持っている。

その、自分の身すら顧みないような、なりふり構わない意志の強さ。激情、とも呼べるような感情を自分の中で育てているっていうのが、胡蝶しのぶという人の魅力であり、そばで見ていて胸が締め付けられるような気持ちになる部分だと感じています」

――7月公開の劇場版では、まさしく胡蝶しのぶのそんな姿が見られる場面が展開されます。劇場版の公開に向けて、一言いただけますか?

「いろいろな意味で、全身全霊でアフレコをしましたので、ぜひしのぶが戦う姿を、その目に焼き付けていただけたら嬉しいです」

取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃

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