何をやるにも遅すぎることはない、挑戦してこそ「メダリスト」【サンキュータツオ】
アニメ 見放題連載コラム
2025.04.08

サンキュータツオ (芸人、日本語学者)
芸人、日本語学者。芸人として活動するかたわら大学教員を務め、アニメなどのサブカルチャーにも造詣が深いサンキュータツオが、今クールのおすすめアニメを紹介する。

サンキュータツオ (芸人、日本語学者)
芸人、日本語学者。芸人として活動するかたわら大学教員を務め、アニメなどのサブカルチャーにも造詣が深いサンキュータツオが、今クールのおすすめアニメを紹介する。
今回紹介するアニメは「メダリスト」。フィギュアスケートで金メダルを目指す少女・結束(ゆいつか)いのりと、彼女が独学でフィギュアの練習をしているのを見て、居てもたってもいられなくなった元選手の明浦路司(あけうらじつかさ)。競技を引退し今後の生き方を考えている司が、いのりの才能にほれ込みコーチとして教えているうちに、内なる情熱に気づいていく。このアニメはこうして表の主人公いのりと、裏の主人公の司という二人の葛藤と成長を描く。
ひたむきな努力と情熱、前を向き続けることの大切さ。そんな姿がてらいもなくストレートに、時にユーモラスに描かれる。一話ごとに笑い、そして爽やかに涙してしまう非常にすがすがしい作品だ。
コーチ×才能の原石!共感を呼ぶスポーツ師弟もの
近年だと「オーイ!とんぼ」で<コーチと、何も知らない才能の原石>という組み合わせが成功を収めたが、主人公を少女に固定するよりは、主人公を見守る立場であり、視聴者にとってはプレーの解説役でもある「コーチ」の存在を裏の主人公にしたことが、多くの視聴者の心をつかんだ。
「メダリスト」も同様の構造であるが、司は競技生活のスタートが人より遅かったせいで非常に苦労した人物で、いのりも正式なレッスンを受け始めるのが遅かった(ただ、才能の片りんは見せていた)。コーチの経験が弟子に生きる。挫折を味わった人が自分の人生を取り戻す物語にもなっているので、物語上でも多くの人が共感してしまう要素が乗っかっている。何をやるにも遅すぎることはない、挑戦してこそなのだというメッセージにも、本当に勇気をもらえる。
自分はこのまま今の状況で続けていいのだろうか。仕事でも競技でもこうした不安を感じている人は多いだろう。それこそナンバー1以外の人は全員そう思っているはずだ。だから、このアニメは全ての人の応援歌にもなっている。扱っているものはフィギュアスケートでも、テーマは普遍的なもの。よくできてんだよね、ホントに!
動いてばかりのスポーツはアニメにしにくい!?
ところで、テレビアニメーションの世界で、ひと昔前までは不可能だと言われていたジャンルが「自転車」「バスケット」「フィギュアスケート」だった。常に動き続けているからだ。作画に異様な枚数と予算がかかってしまう上に、時間もかかる。通常のアニメーションの倍の予算と時間をかけても描き切れない。状況が変わったのは、3DCGの発達と、手書きとCGの絵の自然な融合が可能になった、ここ10年ほどだ。
自転車は車輪をこいでいる下半身はCGで、キャラクターは手書き、というふうに組み合わせて動きや表情の違和感を軽減してきた歴史がある。サッカーと違って狭いコートに人間が密集し、全員が違う動きをしながら連動しているバスケットは、モーションキャプチャーの技術が高まったことで、実際の人間の動きに合わせた作画が可能となった(『THE FIRST SLAMDUNK』など)。
技術の進化がフィギュアスケートの動きを表現可能に
フィギュアスケートを扱ったアニメといえば過去にいくつかあるが、それまでのものと決定的な違いを鮮明に印象づけたのは、2016年の「ユーリ!!! on ICE」だろう。フィギュアはスピードの緩急、回転、さらにはジャンプなどの上下運動という動きのオンパレードなのだが、それらの技術の集大成ともいえる「現代アニメの現在地」としても金字塔的な作品だ。
そこへきての「メダリスト」の登場だ。これらのアニメの歴史の最高到達点がこのアニメにあるのは、自然といえば自然だが、とはいえ技術的なプログラミングは、手書き同等に難しい作業でもある。それをテレビアニメで放送してくれていることに私は感謝せずにはいられない。よくぞ挑んだ! 魅力的なライバルたちも、コーチ陣にしても、バディものとして楽しめるが、そこにはこうした着実なアニメの技術の進化がしっかりと刻印されている上でのこと。絶対に見てほしい作品だ! 激推し!