声優・井上和彦、キャラクターに命を吹き込む声優道
アニメ 見放題インタビュー
2025.01.31
「美味しんぼ」の山岡士郎役や、「NARUTO-ナルト-」のはたけカカシ役、「夏目友人帳」のニャンコ先生/斑役など、長年にわたり数多くの名作で主要キャラクターを演じてきた声優・井上和彦さん。その柔らかくも力強い声質で、二枚目のイケメン役から愛らしい動物、妖怪役まで、キャラクターの個性と心情を魅力的に表現し、幅広い世代のファンを惹きつけています。
■体の大きさを意識した、ニャンコ先生のお芝居
(C)緑川ゆき・白泉社/「夏目友人帳」製作委員会
――『夏目友人帳』のニャンコ先生は大人気のキャラクターですが、演じるときにはどんなことを意識されているんでしょうか。
「まずは体の小ささですよね。自分が、あのドッジボール2個分の体になったらどうなるのかということは考えています。
おそらく私たち人間が見えている感じとは少し世界の見え方が違う。つまり、距離感の取り方も違うわけですよ。距離感が違えば声の出し方が変わります。具体的にどんなふうに声の出し方を変えるのか、というのは企業秘密な部分なのであまり詳しくはお伝えできないですが(笑)。
斑は逆に、今度は人間よりも大きくなります。なので、小さいニャンコ先生と、大きな斑、このあたりを計算ではなくて、自分がその大きさになったときの感覚で無意識で出している、という感じです」
(C)緑川ゆき・白泉社/「夏目友人帳」製作委員会
――空間を意識した声の出し方になっている......!しかも、それを無意識でやっている、というのがすごいですね。
「一応、50年やっているわけで、それが感覚的にできなかったら『井上、50年の間、何やってたんだ』と思われてしまいますからね(笑)」
――井上さんの目には、『夏目友人帳』という作品はどんなふうに映っていますか?
「20年間続いていることもあって、幅広い年代の方々に楽しんでいただいている作品になっているのではないかと思います。それも1話完結なのですごく見やすくてね、第一期から順番に観ていってもいいし、第三期でも第六期でも、どこから観たってかまわないですから。
どこを観ても穏やかな空気感が流れていて、人のやさしさ、妖(あやかし)のやさしさを通じて、大きな意味での『やさしさ』そのものに触れられる。観ると胸の中にじんわりと温かいものが生まれてきて、どこかほっとできるような作品。
これは裏側の話ですけど、制作スタッフも焦りがなくて、どこかのんびりしているんですよ。ほかの作品でご一緒するときにはあくせくとしている方でも『夏目友人帳』の現場で会うと、少しのんびりしている(笑)」
――面白いですね(笑)。それって、作品があるからそういう空気感になるのか、そういう空気感だから作品が穏やかになるかって、どっちなんでしょうかね。
「やっぱり緑川先生が作り出した世界の空気感があるからだと思いますよ。その世界に触れると、誰もが落ち着いてしまうんだと思います」
「夏目友人帳」シリーズのレンタル版配信中!
(C)緑川ゆき・白泉社/「夏目友人帳」製作委員会
■新境地?『悪役令嬢転生おじさん』に注目
――2025年放送開始の『悪役令嬢転生おじさん』でも悪役令嬢に転生してしまう50代のサラリーマン・屯田林憲三郎という難しい役を演じられていますね。
「いや、設定自体がもうぶっ飛んでると思いましたよね(笑)。頭が薄くなったサラリーマンのおじさんが、ゲームの登場人物である貴族の美人悪役令嬢に転生しちゃうという......。
それで彼(彼女?)には特殊能力があって、長いサラリーマン人生で培ってきた処世術をその令嬢の口から話すんですが、ふつうにおじさんの言葉で喋ると令嬢が話すには違和感があるので、自動で令嬢風の口調に変換されるという【優雅変換】(エレガントチート)という能力を持っている(笑)。
M・A・Oさんが演じるグレイス嬢の声の奥、中身に常にそんなおじさんがいるんだということを感じてもらえたら嬉しいな。それだけで面白いと思います」
(C)上山道郎・少年画報社/悪役令嬢転生おじさん製作委員会・MBS
取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃