異国の料理を見ているようで楽しい!「ダンジョン飯」【松井玲奈】

松井玲奈

松井玲奈 (役者、小説家)

役者、小説家。アニメ好きとしても知られる松井玲奈が毎回1つの作品を取り上げて、その魅力を再発見する。

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松井玲奈

松井玲奈 (役者、小説家)

役者、小説家。アニメ好きとしても知られる松井玲奈が毎回1つの作品を取り上げて、その魅力を再発見する。

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異国の料理を見ているようで楽しい!「ダンジョン飯」【松井玲奈】

このたび連載を担当させていただくことになった松井玲奈と申します。アニメを再発見する連載ですが、正直に言います。

私、最近のアニメをほとんど知らん! 

じゃあ、なぜおまえがアニメを語る連載をするのか、そう思われますよね。はい、私もそう思います。

私が積極的にオタクとして深く、深く息をしていたのは2000年代。まだ世間一般ではオタクの肩身は狭く、アニメが好きだと言うと変わった子だと言われたり、オタクの女だとレッテルを貼られる時代でした。しかし、仕事をする内に全てのアニメを追いかけることは難しくなり、本当に追いかけたいものしか追いかけられなくなってしまいました。その結果、気がつけばアニメと距離のある日々になり、一方、世間のアニメとの距離はグッと近づきました。アニメを見る大人の人口が増え、さまざまな爆発的人気作品が生まれ、大人から子供まで多くの人に愛される作品が増えました。作品が面白いのはもちろんですが、配信サービスの充実も昨今のアニメ人気に関係しているのではと考えています。昔は録画して見ていたものが、見たい時に手軽に見ることができるようになった。これはユーザー側にとってはとても良いことだと思います。実際、J:COMのサービスでもたくさんの作品が配信され、自分の好きな時に作品を選んで見ることができます。

悲しいかな私は時代と逆行していました。人気作と呼ばれる、例えばスパイの家族の話とか、鬼の妹がいる話とか、宿儺(すくな)の指を巡る話などなど、そんなに人気なら見てみようかと思いながら、いまさら見ても遅いよと言われるのがオチかしらと諦めてしまい、人との会話に困らない程度の知識を入れておく程度になってしまいました。

でも、本当なら見たい! というわけで前置きが長くなりましたが、今回素敵な連載の機会をいただくことでアニメに再び触れよう! そして面白い作品を新旧関係なく再発見しようではないか! というのがこの連載の趣旨でございます。みなさんも一緒に楽しんでいただければ嬉しいです。

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(C)九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

さて、第1回は「ダンジョン飯」。どんな話かはタイトルの通り。ダンジョンで飯を食う話。シンプルです。

ちょうど、ダンジョン飯の原作漫画が連載されていた頃は、グルメ漫画ブームが到来していたように思います。私自身、食べ物が出てくる作品が好きなのもあり、あらゆるグルメ漫画に手を出していました。その中で彗星(すいせい)のように現れ、異彩を放っていたのがこちらの作品。

作品のポイントは3つ。
・RPG系
・新感覚グルメ作品
・物語の軸の強固さ

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(C)九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

まず、1つ目の「RPG系」について。

主人公たちはパーティーを組んで迷宮(ダンジョン)を探索しています。なんと、そこで主人公ライオスの妹ファリンがドラゴンに食べられてしまう。共に旅をしていたパーティーは迷宮の外へ転送され、また一から迷宮探検が始まるが、ライオスは「妹を助けに戻りたい」と主張するのである。ここが物語の始まり。

私たちはライオス一行がファリンを助け出す旅を共に追いかけることになる。この展開がめちゃくちゃRPG的だと感じ、ワクワクしました。ゲームのボス戦で負けてしまい、いったん装備も所持金もリセットされてしまう経験がある人もいるのではないでしょうか。弱い敵を倒したり、簡単なミッションをクリアすることで報酬を得て武器を強化したり、食料を買い込んだりする。そんな展開が見えた! ここから1、2話は準備をし、装備を整え、満を持して迷宮へ乗り込むのかと思いきや

「ファリンがドラゴンに消化される前に助けなければ」

とライオスは軽装備かつ、少人数パーティーのまま迷宮へ向かってしまう。波乱万丈の物語の始まりです。

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(C)九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

そして、2つ目の「新感覚グルメ作品」が生まれるのです。

装備を強化することができない彼らは当然お金がない。お金がなければ食料を手に入れることもできない。それなら迷宮にいる魔物を食らって腹を満たせばいいじゃない! と、足の生えた歩き茸や、まるで伊勢海老のようなミミックを捕まえ調理をしていきます。共に旅をする魔法使いのマルシルや、ハーフフットのチルチャックは未知の食材に口をつけることをためらうけれど、食べてみると意外と悪くない。一方、ライオスは「一度食べてみたかったんだ」と満足げに頬張っている。ヤバいやつです。

狩りをして命をいただく自給自足系グルメ作品はこれまであったし、グルメ漫画の良さは実際に作ることで二次元を三次元へ変換できる体験性にあると感じていたからこそ、魔物を調理するなんて斬新!と驚きました。

ダンジョン飯に登場する魔物食は実際に作ることは不可能だけれど、次第に異国の料理を見ているようで楽しくなってきます。毎回登場する魔物たちが一体どう調理されるのか気になってしょうがないし、スライムってどんな食感? ドラゴンのステーキってどんな味? と想像するのも楽しみの一つです。そして、つくづく「ウニを初めて食べた人ってすごいなあ」と思うのです。あの黒々、トゲトゲした殻を割ったら、オレンジ色のどろりとした塊が出てくるわけで。現代人はそれが美味しいことを知っているから感嘆の声を上げ、口にするけれど、自分がウニを最初に口にした人物だったとしたら、最初の一口に至るまでかなりの葛藤がありそうだなあと想像します。だって、オレンジのどろりとした物体なんて怖いじゃない。ダンジョン飯はその連続。センシという魔物調理に詳しいドワーフが仲間になることで、ライオス一行のダンジョン飯はより豊かになっていきます。

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(C)九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

さらに、3つ目の「物語の強固さ」。

これはネタバレ要素も含むのでほどほどにしておきたいところですが、ライオス一行のファリン救出劇以外にも、伏線が張られており物語が進むごとに迷宮に隠された秘密が明かされていきます。ほのぼのとしたグルメシーン以外に、物語でしっかりと私たちを引きつけてくれる。迷宮に張り巡らされた強力な魔法の正体、迷宮の外で迷宮の所有権を手に入れようとする人々の暗躍、種族間の対立や関係性など、ファリン救出劇だけで物語は終わらない。

迷宮は深く謎だらけ。続くシリーズの中で登場するダンジョン飯と、迷宮の謎が解き明かされるのが楽しみでなりません。