中島裕翔が感情表現の全てを駆使して綴(つづ)る珠玉のシチュエーションスリラー

中島裕翔が感情表現の全てを駆使して綴(つづ)る珠玉のシチュエーションスリラー

Hey! Say! JUMPとしてステージ上のパフォーマンスで多くのファンを魅了しつつ、役者としても演技で多くの人々の心を震わせている中島裕翔。現在、ドラマ「秘密~THE TOP SECRET~」(フジテレビ系)で、死者の脳から生前の記憶を映像で再現する技術を用いて未解決事件の真相を追う新米捜査員役を熱演中だ。

これまで数多くの役を演じ、同ドラマでも役者としての新しい一面を見せている中島が、役者としての感情表現の引き出し全てを開いたと言っても過言ではないほどの演技を見せているのが映画「#マンホール」(2023年)だろう。

同作品は、マンホールに落ちてしまった男性の苦闘を描いたシチュエーションスリラーで、原案・脚本を務めた岡田道尚によるオリジナルストーリー。営業成績ナンバーワンの会社員・川村俊介(中島)は、社長令嬢との結婚式前夜に東京・渋谷で開かれたサプライズパーティで酩酊(めいてい)し、帰り道で不覚にもマンホールの穴に落ちてしまう。深夜、穴の底で目覚めた川村は、足に深手を負い、思うように身動きが取れない中、スマホを駆使して脱出を試みるというストーリー。

岡田道尚が紡ぐ幾重にも張り巡らされた仕掛け

この作品の魅力といえば、やはり巧妙な仕掛けが幾重にも張り巡らされたストーリーだろう。"穴の中"という限りなく限定されたシチュエーションながら、2分に1度訪れるピンチが主人公を襲い、物語に大きな潮流を生んでいる。その仕掛けの全てが秀逸で、先のピンチが後のピンチに絡んで、倍々ゲームで主人公を絶望の淵へと引きずり込み、謎が謎を呼ぶ展開が視聴者を作品世界にどんどん引き込んでいく。しかも、川村が頭のキレる"できる"キャラクター設定であるため、見舞われる危機に対して視聴者が思い付く前(もしくは同時)に対応方法を描いていかなければならず、"ピンチ→対処"を忙しく繰り返しながら、だんだんとピンチの度合いを強めていくという緻密な計算によって構成されている。さらに、ピンチを乗り越える度「何者かにはめられたかもしれない」という疑問も同時に深まっていくことで、最後までドキドキワクワクを提供してくれている。

また、こういった内容で制作者が一番処理に困るのがスマホの存在だが、よくあるような充電切れや破損、紛失などによって使用を不可能にするという"逃げ"の手法ではなく、あくまで「スマホは活用できる」という条件を生かしたまま危機に陥れていくところがあっぱれ。存分に楽しんでいただくため詳述は避けるが、スマホが使用できることで得る活路はもちろん、逆に使用できるからこそ陥るピンチもあり、"便利過ぎる世の中において、文明に頼り過ぎる恐ろしさ"にも言及しており、引き込まれた世界の中でもつい考えさせられる部分がある。

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"役者"中島裕翔の引き出しの全部が見られる

そんな岡田が作り上げ、熊切和嘉監督が描き出す"緻密に積み上げられた世界"で、中島が川村として躍動。"ワンシチュエーションでほぼ一人"というなかなかハードルの高い役どころながら、持ち得る感情の引き出しを全て開けて、役者としての実力を余すところなく披露している。焦燥、落胆、希望、憤怒、疑念、失望、イライラ、激高、反省、謝意、後悔、驚き、歓喜、安堵、絶望、諦め...など、次々と迫りくるピンチに振り回されながら、その都度抱く感情を繊細かつ大胆に表して、次第に人間性が顔をのぞかせていくさまは必見。決して過剰な感情表現に溺れることなく、しっかりと大きな流れを乗りこなしながら、役者にとって無茶ぶりとも思える難役を演じ切っている。

加えて、川村の電話に出て救出を図る元恋人・工藤舞を演じる奈緒の演技も絶品。声だけの出演ながら、愛くるしい博多弁に乗せて豊かな感情を表し、持ち前の演技力を遺憾なく発揮している。

幾重にも張り巡らされた仕掛けと、それに勝るとも劣らないクオリティーで応えた中島の演技。どちらが欠けても成立しない、この両輪だからこそ生み出すことができた珠玉のシチュエーションスリラーをご堪能あれ。

文/原田健

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