実話を基にしただけでなく、原作者自身が製作に関わっているので引き込まれる「ハッピーフェイス」【関根麻里】
海外ドラマ 見放題連載コラム
2025.05.08

こんにちは、関根麻里です。私が大好きなパラマウントプラスの海外ドラマを皆さまにご紹介する連載コラム、第7回は実話を基に連続殺人犯の娘の葛藤を描いたサスペンスドラマ「ハッピーフェイス」です。
家族との平穏な日常に忍び寄る不気味な影
本作は、1990年代のアメリカで8人の女性を次々と殺害後、スマイルマークが書き添えられた犯行声明文を新聞社に送り付ける大胆な手口から"ハッピーフェイスキラー"の名で恐れられた実在のシリアルキラー、キース・ジェスパーソンの娘、メリッサ・G・ムーアが2018年に制作した自伝『Shattered Silence(原題)』が原作です。
物語は、ヘアメイクアップアーティストとして働きながら、家族と穏やかな日々を送るメリッサ(アナリー・アシュフォード)の娘ヘイゼル(カイラ・アイン)宛に、差出人不明のバースデーカードが届くところから始まります。「いつか一緒にチリワックへキャンプしに行きたい。ママに聞け。そこは家族にとって特別な場所だ」と書かれたカードには、胸元がスイカの断面図になっている金髪の女性が描かれた不気味な絵が同封されていました。
子どもたちには既に亡くなっていると伝えている父キース(デニス・クエイド)が刑務所から投函したものだと気づいたメリッサは、獄中の父へ「二度と子どもたちに手紙や変な絵を送らないで」という怒りのメッセージを電話で残します。この出来事をきっかけに、メリッサは父が今まで隠してきた9人目の被害者が存在することを知り、犯人として誤認逮捕された死刑囚イライジャ(デイモン・ガプトン)を救うために奔走します。
実話を基に描いたドラマというだけでなく、原作者のメリッサ・G・ムーアさん自身がエグゼクティブ・プロデューサーとして製作に関わっている本作。毎回引き込まれる内容で、終始ドキドキハラハラしながら見ています。
実力派キャストが熱演!見応え抜群のドラマ
主人公のメリッサは、父キースの行動がきっかけで、仕事場でもあるリアリティー番組内で、自らが連続殺人犯ハッピーフェイスキラーの娘であることを大々的に公表することになります。そこから始まるさまざまな負の連鎖、ハッピーフェイスキラーが今まで隠してきた第9の殺人の証拠を探す謎解き要素、殺人犯の家族として生きることの苦しみや、彼らへ注がれる周囲の差別的言動を描く社会派ドラマとしての側面など、どれを取っても非常に見応えのあるドラマだと思います。中でも、メリッサの15歳の娘ヘイゼルへの影響がすごく心配になりました。
主人公のメリッサを演じるのは、ミュージカル『ウィキッド』(2007)、『キューティ・ブロンド』(2007)で注目され、『You Can't Take It With You(原題)』(2015)ではトニー賞・最優秀主演女優賞に輝いた実力派アナリー・アシュフォードです。実際のメリッサさんともよく似ていて、ご本人と同じ雰囲気を出せる彼女の繊細な演技によって、物語がよりリアルに感じられました。
そして、全米を恐怖に陥れた世紀のシリアルキラーを『デイ・アフター・トゥモロー』(2004)で知られ、『The Special Relationship(原題)』(2010)ではエミー賞とゴールデン・グローブ賞で主演男優賞にWノミネートされた名優デニス・クエイドが演じています。底知れぬ不気味さを持ちながら、どこかチャーミングな部分が見え隠れする演技に引き込まれました。連続殺人という決して許されない罪を犯した人物ではあるものの、どこか人を惹きつけるパワーも持っている。そんなハッピーフェイスキラーという人物の多面的な部分を表現していて、本当にすごい役者さんだなと改めて思いました。
引き込まれる展開&心揺さぶる演出と音楽
私はドラマ「クリミナル・マインド FBI行動分析課」が好きで、よく見ていたのですが、同作は殺人犯を捕まえることに焦点を当て、一話完結型でどんどん事件を解決していくスピーディーな展開が魅力です。一方で、「ハッピーフェイス」はじっくりと一人の連続殺人犯とその家族を取り巻く環境にスポットを当てて、深く掘り下げています。だからこそ、主人公のメリッサに寄り添いたくなりますし、自然と感情移入して物語に引き込まれていくのだと思います。
物語の展開も素晴らしいですし、バックに流れる音楽の使い方もとってもおしゃれです。映像も、手持ちカメラで撮影されていて、常に画面が少し動いているんです。その揺れが、登場人物たちの心情にリンクしていると思わせる演出も見応えがあります。特にグッと来たのは、第4話「姉弟」でのクライマックスシーン。メリッサと弟のシェーンが、お互いに「自分が父を止めていれば、殺された人を救えたかもしれない」という思いをずっと抱えてきて、お互いにしか癒やせない心の傷をさらけ出しながら抱き合う場面では、役者さんの熱演に思わず胸が締め付けられました。
ヘイゼルを取り巻く問題や、彼女とキースの関係、イライジャの冤罪(えんざい)など、気になる要素がまだまだ盛りだくさん。実話を基にした物語だからこそ、一層の重みとリアリティーを感じます。皆さんも、ぜひ最後まで見届けてください。