「スター・トレック:ディスカバリー」から見る「スター・トレック」シリーズ人気の秘密

「スター・トレック:ディスカバリー」から見る「スター・トレック」シリーズ人気の秘密

「スター・トレック:ディスカバリー」は半世紀以上もの間、熱い支持を受け続ける宇宙SFサーガ「スター・トレック」の6番目の実写ドラマだ。2009年に始まった映画版の新シリーズの好評を受け、ドラマ版の前作「~エンタープライズ」から12年ぶりに作られたのが、この「~ディスカバリー」。12年間にあった現実社会の変化から、映像技術(VFX)の進歩までたっぷりと汲んで、大いに楽しめるエンタメとなっており、4月には最終シーズンとなるシーズン5の配信が開始された。

シーズン1の物語は2256年という未来からスタートする。ドラマ第1作「宇宙大作戦」の幕開け(2264年)直前という設定だが、「宇宙大作戦~」を熱心に愛するファン"トレッキー"たちも知らない時代を舞台にすることで「スター・トレック」の世界を新たな気持ちで楽しめるという工夫を感じさせた。2009年以降の映画版シリーズと同じく、原点「宇宙大作戦~」の世界観を一度リセットし、新たな世界観と最先端VFXで若いファンを獲得するという野心的な試みだ。

主人公は、サーガで初めて、アフリカ系女性として後にスターシップ(宇宙艦)の艦長・船長になるマイケル・バーナム(演じるのは「ウォーキング・デッド」のソネクア・マーティン=グリーン)。また、後に『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』で、アジア系として史上初めてアカデミー賞の主演賞(この映画では主演女優賞)に輝くミシェル・ヨーが、ある宇宙艦の船長ジョージャウ役を好演。時代に先がけて多様性を意識した「スター・トレック」の精神をしっかりと継承している。

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さてこの「~ディスカバリー」が斬新なのは、ドラマ版の第1~5作が原則的に各話で物語が終わる"一話完結形式"だったのに対し、"連続ドラマ形式"を選んだこと。これによって「~ディスカバリー」のシーズン1~4はそれぞれ13~15話(シーズン5は10話)を使い、各シーズンで壮大なストーリーを描けるようになった。大ヒット作「24 -TWENTY FOUR-」以来、全米では"連続ドラマ形式"が人気。時流にきっちりと対応してみせた。

そんな「~ディスカバリー」のシーズン1~4はいずれも、まさに"約10時間続くエキサイティングなSFアドベンチャー映画"のような様相を呈した。これまでの「スター・トレック」サーガを知らない人にとって、ここから見ても楽しめるというシフトチェンジが成功したから、本シーズンまで続いたに違いない。このシーズン5が惜しくも"最終章"になるとはいえ、有終の美を飾ろうというスタッフ・キャストの情熱はたっぷりだ。

前シーズンのラストで、巨大な重力異常現象"DMA"を回避したマイケルら、惑星連邦の宇宙艦ディスカバリーの乗員たちだが、新シーズンでは800年前に消えたロミュランの宇宙船を回収する任務へ。しかしそこには宇宙の運命を左右しかねないレガシーが眠っており、それが盗賊コンビに奪われ...。引き続いて"連続ドラマ形式"らしい壮大な物語を描きつつ、よりスケールアップした冒険が最新VFXを駆使して描かれているのがたまらない。

こんな「~ディスカバリー」がある一方、同じParamount+で見られる「スター・トレック」サーガ最新作「~ストレンジ・ニュー・ワールド」は、サーガの原点"一話完結形式"に回帰して好評を獲得。スタイルや登場人物が変わりつつも時代に対応し続け、最高峰のエンタメをめざす。だからこそ、「スター・トレック」はここまで続いてきたのだ。

文/池田敏