「愛の不時着」イ・シニョン、シウミン(EXO)、チェ・ヒョンウォン(MONSTA X)ら出演の青春群像劇「社長ドル・マート」【古家正亨】

「愛の不時着」イ・シニョン、シウミン(EXO)、チェ・ヒョンウォン(MONSTA X)ら出演の青春群像劇「社長ドル・マート」【古家正亨】

「社長ドル・マート」の主人公は、とある事故が原因で、解散を余儀なくされたアイドルグループの「サンダーボーイズ」。アイドルとしてまさにこれからという時に、夢も仲間も、そしてきっと輝かしかったであろう未来までも失ってしまいます。それから5年。元リーダーのホラン(イ・シニョン)は、サンダーボーイズのメンバーが、とあるマート(スーパーマーケット)の社長であることを知らされ、バラバラになってしまっていたメンバーたちを、再び呼び寄せることにします。しかもそのマートが、練習生時代によく通っていた思い出の「ポラムマート」だったんです。再集結したメンバーたちは、不慣れなマートの業務に四苦八苦しながらも、潰れかけたマートと、解散のために負ってしまった心の傷、この2つの再生のために、新しい一歩を踏み出すことになるんです。

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近年はK-POPアイドルという華やかな世界に憧れ、日本から韓国に渡る日本人の若者も少なくありません。グローバルに活躍する、そんなK-POPアイドルたちを見ると、韓国に渡れば、そこに近づける可能性は高いのではと誰もが思うでしょう。

ところが、現実はそう甘くありません。数百人もいるといわれる韓国国内のアイドル練習生たちの中で、1年間にデビューできるのは、多くて十数組。しかもその中で、定期的に音楽番組に出演して、華やかな活動が出来ているグループは指の数ほどしか存在しません。つまり、そんな華やかな舞台で活躍しているグループがある一方で、大多数のグループはデビューできたとしても、相当苦労せざるを得ないのです。本作に出てくるサンダーボーイズは、それでも事故がなければ、華やかな世界で輝きを放っていた可能性は高いでしょう。しかし、一寸先は闇であることも示しているのです

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本作が興味深いのは、そんなアイドルたちが、アイドルとしてではなく、潰れかけたスーパーマーケットの再生を通じて、自分たちの新しい未来を切り開いていく群像劇に仕上がっているところ。アイドルとして再起をかけるのではなく、セカンドキャリアの在り方を示しているところにあります。決して業界モノのドラマではないのですが、こうしたセカンドキャリア問題は、スポーツ選手同様に、芸能人においても死活問題となっています。生きていくためにはどうすべきか。何を捨て、何を得るべきなのか。10話構成でつづられるテーマは、決して重くなく、むしろ軽いぐらいに描かれ、視聴を進める過程で、じわりじわりとその重さが伝わってくる感じです。

そんなサンダーボーイズのメンバーを演じているのは、トップアイドル&若手スターの面々。元サンダーボーイズのブレーンでダンサー、お金が大好きで計算も得意ということで、マートではキャッシャー担当のシン・テホを演じているのは、世界的な人気を博すEXOのメンバーであるシウミンさん。ビジュアルとラップ担当で鮮魚担当のチョ・イジュン役は、日本でもトップクラスの人気を誇るグローバルボーイズグループMONSTA Xのメンバー、チェ・ヒョンウォンさんが熱演されているんです。さらに、サンダーボーイズのマンネ(末っ子)でメインボーカルと愛嬌を担当し、マートでは飲料担当のユン・サンウを演じるイ・セオンさんも、韓国の国民的オーディション番組「PRODUCE 101 シーズン2」に参加していましたから、アイドルの心得を熟知しているはず。このように、現在もアイドルとして活動中、ないしは、アイドルを目指していたメンバーが、元アイドルを演じるというところも、このドラマの興味深いところではないでしょうか。

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実は、「『社長ドル・マート』ドラマファンミーティングin TOKYO」が2024年2月に行われ、EXOのシウミンさん、イ・セオンさん、そしてチェ・ウォンミョンさんの主演3人が来日しました。チェ・ウォンミョンさんは本作の中で、サンダーボーイズの元ボーカル担当で、マートでは精肉担当となったウン・ヨンミンを演じ、ドラマ「ザ・ファビュラス」などでも知られる若手スターです。ファンミーティングでは、ドラマの魅力や裏話をキャストから直接教えてもらえるという貴重な機会が設けられ、ありがたいことに僕がMCを務めさせていただきました。

シウミンさんはテホを演じるにあたって「自分自身が"現職"のアイドルであるため、"元"アイドルという立場を理解するのが難しかった」と語り、あえて"現職"アイドルであることを強調。可愛らしくお茶目な振る舞いに、会場のファンから大きな歓声を浴びていました。ソウル出身のチェ・ウォンミョンさんは「韓国の忠清南道の方言を使いこなす役だったので、難しかった」と語り、セリフ回しに特に気を使ったとのこと。そして、イ・セオンさんは「マンネ役だったので幼く若く見えるよう気を使った」と言い、一つの手段として「監督と相談してパーマをかけた」と話していたのが印象的でした。

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また、ドラマの舞台となるポラムマートは、廃業した実際のスーパーマーケットを使い撮影をしたそうですが、ドラマの撮影中、営業を再開したのかと思ったかつての常連客が入って来ることもあったそうで、まるでドラマさながらだったそう。メンバーたちもスタッフに間違えられたりしたそうで、それもまた良い思い出だったという話も聞くことができました。

イベントを介して、サンダーボーイズのメンバー一人ひとりの背景を知り、それに基づいたディテールのある演技に目を向けると、さらにこのドラマの面白さと深さに気づかされたので、ぜひその辺りにも注目して見てもらいたいです。

ただ一つ残念だったのが、ヒロインがあまり活かされなかったこと。もちろん、このドラマの主人公はサンダーボーイズですから、仕方ないといえばそれまでで、むしろ極端なラブラインが生まれない方が良いとする視聴者もいるでしょう。ただ、個人的には部活のマネージャー的存在に止まってしまったヒロインに、もう少し活躍の場を与えてあげても良かったのではないかと。

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いずれにしても、サンダーボーイズのメンバーそれぞれの豊かな個性とそのバックグラウンドに、自分自身を誰かしらに投影できるはずなので、自分もサンダーボーイズの一員になったつもりで見てほしいですね。きっと自分が経験してきた人生の辛酸を、彼らからも感じられるはずです。

古家正亨

古家正亨 (ラジオDJ/イベントMC)

ラジオDJ、イベントMC。 K-POPなどの「韓流」カルチャーを20年以上にわたり日本に紹介してきた古家正亨が、毎月オススメの韓流コンテンツを紹介。

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