作家・綿矢りさが語る、中国エンタメ、中国カルチャーの魅力「陳情令」に感じた新しい時代の波
韓国・アジアドラマ インタビュー
2025.05.20
ドラマやアニメなど、いま日本ではかつてないほどの中国エンタメブームが発動中。中国ドラマ『陳情令』の大ヒットや、中国カルチャーを特集した文芸誌『すばる』が重版となったことも話題になった。この『すばる』での特集『中華、いまどんな感じ?』をプロデュースしたのが作家の綿矢りささん。自身も中国ドラマや映画を追い、2022年には北京で暮らし、それをもとに小説「パッキパキ北京」を上梓した。綿矢さんが思う中国エンタメ、中国カルチャーの魅力とは?
――北京滞在時に印象に残ったことを教えてください。
「前に行ったのが20年くらい前で、その時はどこもかしこも工事中で、工事現場からの砂塵でもくもくしていましたが、この前行った時は落ち着いていましたね。都会化されてショッピングモールが増えて、いまは北京の中心がどんどん広がっているらしいです。中心地の外に住んでいた人たちの家が取り壊されて、都会の北京が同心円状に広がってきている。それでも高層ビルと高層ビルの間の地域、小区とよばれるエリアにはまだ小さいお店や団地がつらなっていて、そこを歩いていると古き懐かしい中国らしさみたいなものを感じました。たくさんの種類の肉まん、饅頭(マントウ)を売っていたり、食堂があってその外のショーケースではお総菜を売っていたり」
――中国カルチャーについてはどんな魅力を感じますか?
「色彩が豊かで、日本とはちょっと違う種類の濃い色がみんな好きですね。全体的に過剰でけれんみがあって、ファッションも豪華さや迫力みたいなものが重視されている。男女ともに強さを求められるのか、活躍している人も背が高くてパーンとしている感じでした。その一方で、若者カルチャーを調べていても、流行のワードが昔からある言葉を今風に変えたものだったりします。昔からあるものに今の流行を加えてもう一回楽しむ、忘れずに取り入れようとする、そういうのが面白いし、独自のものだと思います」
――中国ドラマはいかがですか?
「配信で見たBLドラマ『ハイロイン』にハマりました。北京の郊外に住む貧しい男の子と北京のお金持ちの男の子が恋をする話なんですが、恋のところも好きだけれど、そこに描かれた北京の様子にひかれましたね。貧富の差を描いたことで貧の方もしっかり描写されていて、ロケ地にも行ったんです。北京の中心からタクシーで2時間くらいの所にある村で、おじいさんとおばあさんが外で麻雀やトランプをしているような所。素朴な雰囲気で皆さんが楽しく暮らしているのが伝わってきた。私は京都育ちなんですが、京都みたいな雰囲気もありました。二階建ての建物があまりなくて、平屋で門のところに赤い飾りがはってあったりする、そういう村の子と北京の一番いいマンションに住んでる子が恋をするという設定で、北京の両方の魅力が出ていました。ドラマの原作も読みたくて中国語も勉強しようと思ったので、配信ドラマには感謝しています(笑)」
――その後、日本では『陳情令』がブレークしましたが、どう思われましたか?
「新しい時代が来たという感じでしたね。それまでは中国のはやりもあったのか、俳優さんは筋骨隆々で背が高くて厚みのあるような人が多かったんでが、『陳情令』は細腰の少女マンガから抜け出てきたような俳優たちで、こんな風に変わっていくんだと。『陳情令』のジャンルである仙侠ドラマも、現世が前世や来世とつながって生死の概念を超えていたり、人間の能力ではできないような攻撃をしたり、そのファンタジーの想像力の豊かさにも驚きました。それに中国の伝統の中で蓄積された美意識というのか、男性の長髪も美しいし、風が吹くと髪や衣裳がたなびいて天女みたいで、うらやましい見栄えだなと思いました」
――『陳情令』の推しキャラは?
「聶懐桑(ニエ・ホワイサン)と聶明玦(ニエ・ミンジュエ)の聶(ニエ)兄弟です。他の登場人物たちは結構屈折しているけれど、あの兄弟は人として信じられる感じがして好きでしたね。お兄さんの方もあの世界においては単純なマッチョみたいな感じなんですが、いい人だなと思います」
――『パッキパキ北京』にはワン・イーボー(『陳情令』)についてもチラっと出てきましたね。
「彼の顔も衝撃的でした。日本にもあまりいない感じで、貴族っぽいというのかな。北京にいた時もあちこちに彼の広告があって、眼鏡屋とか薬屋とかどこでも見かける(笑)。先日も『FPU~若き勇者たち~』という映画を見に行ったのですが、いただいたポストカードがイーボーでした。主演は私の推しのホアン・ジンユー(『ハイロイン』出演)なんですが、イーボーの人気が強すぎて(笑)」
――ホアン・ジンユーも人気がありますよね。
「中国のバラエティ番組だと、彼は運動神経がすごく良いのに、踊りがすごくヘタなせいで、踊れ踊れと言われている。みんなヘタなダンスが見たいから(笑)。それでも嫌がらずに踊ったりして、面白い方です。あと東北出身なので、東北の子として親しまれていますね。イベントを見に行ったことがあるんですが、実物はさらっとしたうりざね顔でした」
――最後に中国ドラマの魅力を教えてください。
「一話一話へのお金のかけかたが桁違いにすごいですし、出ている人も風格がある。ドロドロした内容でも爽快な部分があって、アクションシーンも迫力があって子供だましじゃない、テンポもいいのであきないで見られると思います。スターもアクションをこなせる人がほとんどで、女の人は中国のありとあらゆる地方の美女が見られます。好みの問題を超越して単純に美しい。それに女の人でも、たとえば刑事ドラマで犯人を捕まえたり殉職したりもする役、守られるだけじゃない役を演じていてかなり身体を張っている本気が感じられて、そういうのもかっこいいと思います」