酒とツマミを用意して、3人と一緒に飲むつもりで見てほしい「酒飲みな都会の女たち」【古家正亨連載】

古家正亨

古家正亨 (ラジオDJ/イベントMC)

ラジオDJ、イベントMC。 K-POPなどの「韓流」カルチャーを20年以上にわたり日本に紹介してきた古家正亨が、毎月オススメの韓流コンテンツを紹介。

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酒とツマミを用意して、3人と一緒に飲むつもりで見てほしい「酒飲みな都会の女たち」【古家正亨連載】

「等身大な〇〇」という表現が、ドラマや映画、音楽のプロモーションで使われることって多いですよね?そういう意味では、このドラマは「30歳前後の女性の等身大な姿を収めた作品」という言い方で表現できるかもしれませんが、少なくとも僕が30代だった頃、このドラマに出てくる3人の主人公たちのような、大酒飲みな女性は自分の周囲にはいませんでしたね(汗)。これも時代の変化と言えるのか、それとも韓国ならではの風景と言っていいのか......ただ、確実に言えるのは、この15年ぐらいの間に、韓国の女性たちのライフスタイルに大きな変化があったことは間違いありません。

僕が韓国に留学していた1990年代後半から2000年代前半にかけては、韓国の女性の大学進学率は徐々に上がってきたという感じで、職場環境も女性には決して優しくはなく、まだまだお見合い結婚が主流で、ある程度の年齢になると親や親戚からは「いい人いないのか?」とか「いつ結婚するんだ?」という言葉が口癖のように出ていた、そんな時代でした。

しかしIMF経済危機を経験し、財閥企業の構造調整(いわゆるリストラ)を経て、徐々に経済的に復興を遂げ、ゆとりが生まれてくると、韓流ブームの上昇気流も相まって、韓国は経済的・文化的先進国へと飛躍していったわけです。それと同時に、女性の大学進学率も上昇。社会進出や地位の向上につながり、一方で晩婚化・出生率の低下も進んでいきました。

このドラマに登場する3人の主人公たちは、そんな時代を経て、経済的に不自由なく、都会で、自分たちのやりたいことができる自由を手に入れた一方、今の時代を生きるからこそ抱える恋愛や仕事、人間関係、家族の悩みや困難に直面するわけです。

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イ・ソンビンさん演じるバラエティ番組の放送作家アン・ソヒは、記憶を失うほどの酒好き。ここで豆知識ですが、韓国では番組やイベントの構成作家は、ほぼほぼ女性が務めていて、男性の構成作家は限られているほど。日本とは真逆ですね。ただ、韓国での構成作家の役割は、番組のADやイベントの舞台スタッフの仕事を兼ねているため、ソヒの場合は、セカンドの作家なので、そういった雑用を含めての役割を果たしていることになります。憧れの仕事である一方、相当ストレスの溜まる仕事であるが故、その発散のためにお酒を飲みたくなる気持ちはわかります。

そして、ハン・ソナさん演じるヨガインストラクターのハン・ジヨンは、その美しさで多くの人を魅了しますが、そのどんなことに対してもポジティブマインドでいられるその姿勢には頭が下がるほど。ただ、一方で素敵なほどの天然キャラの持ち主でもあります。僕はかつて彼女がガールズグループに所属していた際に、よく一緒にお仕事をさせてもらいましたが、このジヨンというキャラクターとハン・ソナさんが、結構な部分でシンクロするところがあると思います。もちろん、実際にお酒好きかどうかはわかりませんが......。

そしてもう一人の主人公が、折り紙動画クリエイターのカン・ジグ。一言でいうなら、言葉遣いも行動もタフな人。でも、人一倍人情味溢れる性格の持ち主で、何かあれば頼りになる......そんな人間力のあるジグを演じているのが、ガールズグループ・Apinkのチョン・ウンジさん。ドラマ「応答せよ1997」でも見せた、釜山女子らしい強さと弱さ、そして優しさを持つ彼女の魅力が滲み出た、そんなキャラクターを今回のドラマでも演じています。実際のチョン・ウンジさんは、本当に心温かく優しい人で、一緒にお仕事していると、その場がいつも心地よい空間になると言えば分かっていただけるでしょうか。

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そんな大学時代からの親友で、三度の飯よりお酒が好きな3人が、クリスマスが近づいたある日、1人の男性と会うことになり、そこから物語が展開していきます。その男性、カン・ブックを演じるのが、SUPER JUNIORのチェ・シウォンさん。当たり役となったドラマ「彼女はキレイだった」のシニョクに匹敵する名演で、くだを巻く女子たちの想いを受け止めてくれるのです。

このドラマは、社会現象になる程のヒットとなりました。韓国のドメスティックOTT(配信プラットフォーム)であるTVINGのオリジナルドラマとして2021年10月に配信が始まり、大ヒットを記録。シーズン2も制作され、この作品の影響でTVING新規登録者数が最大4倍にも増えたほど。原作が、作家ミカン氏が手がけた「酒飲みな都会の娘たち」という人気ウェブトゥーンだったこともドラマ人気の後押しとなりました。

韓国ドラマや映画に欠かせない「酒」の存在。ある意味、韓国におけるお酒というものは、嗜好品や飲み物という概念を超え、コミュニケーションの媒介ツールになっていると言えると思うんです。このドラマに出てくる先に紹介した主人公3人のアラサー女子たちは、それぞれ違うバックグラウンドを持ちながらも、同じような悩みを抱え、結局それを解決できないまま抱え続け、そして、日々過ぎていく時間の中で、時に思い出しながら、その流れていく時間に身を任せながら生きています。ところが、それでいいのかということを「酒」が気づかせてくれるわけです。

自己逃避や現実逃避のために、人はよくお酒という媒介を使うことがあるかと思いますが、このドラマでは逆に、そのお酒でつながった人とのコミュニケーションを通じて、自分と向き合い、そして次のステップに向けて進んでいく、そんな韓国の現代女性の姿を描いているところに面白さを、そして何より共感を抱いた人も少なくなかったはずです。

見ていただければわかりますが、3人それぞれ愛らしく、そして、必死になって生きている姿に、時にホロリと涙し、そして、共感すると思います。ぜひこの作品を見るときは、お酒とツマミを用意して、3人のお友達になって、一緒に飲む感じで見ていただくと、よりこのドラマが楽しめると思います。シーズン2もあわせて、ぜひご覧ください。

放送日時:2025年2月 7日 09:30~

チャンネル:アジアドラマチックTV★HD

韓国・アジアドラマ

※放送スケジュールは変更になる場合がございます