SNS時代のリアリティーに引き込まれるキム・サラン主演「復讐せよ~あなたの恨み晴らします~」【古家正亨連載】

古家正亨

古家正亨 (ラジオDJ/イベントMC)

ラジオDJ、イベントMC。 K-POPなどの「韓流」カルチャーを20年以上にわたり日本に紹介してきた古家正亨が、毎月オススメの韓流コンテンツを紹介。

連載一覧はこちら

古家正亨

古家正亨 (ラジオDJ/イベントMC)

ラジオDJ、イベントMC。 K-POPなどの「韓流」カルチャーを20年以上にわたり日本に紹介してきた古家正亨が、毎月オススメの韓流コンテンツを紹介。

連載一覧はこちら

SNS時代のリアリティーに引き込まれるキム・サラン主演「復讐せよ~あなたの恨み晴らします~」【古家正亨連載】

今回もドラマをピックアップします。まず、タイトルに惹かれませんか?なんの予備知識もなくこのタイトルだけから想像するドラマといえば、多分「復讐せよ」からは、「応答せよ」シリーズ的なところと、復讐ものであるという推測が。さらにサブタイトルの「あなたの恨み晴らします」からは、「必殺仕事人」的な何かを感じるはずです。でも実際の作品は確かに"復讐モノ"の仮面を被ってはいますが、強烈なマクチャン的展開(非現実的なことが次々に起こり、ドロドロな展開をしていくドラマ)が待っているわけではありません。

ストーリーは、国民的なスターMCとして活躍しているフンソクと結婚し、インフルエンサーとして活動しているヘラが主人公。何一つ不自由ない、最高の日々を満喫していたある日、なぜか突然、年下のアイドル出身リポーターのヒョンソンとの不倫スキャンダルに巻き込まれてしまいます。彼女にとっては「なぜ?」でしたが、人気タレントの宿命なのか、これを機に、ここぞとばかりに彼女に対して非難が殺到し、愛は憎しみへと変わり、彼女はたった一晩にしてどん底の人生を経験することになってしまいます。この辺りはSNS社会の現代を巧みに反映していて、日本でも同じような境遇にあった芸能人たちのニュースを連想させます。

その結果、夫と離婚。さらに放送への出演は取りやめとなり、自身の本を出版することになっていたため、出版社からスキャンダルのために本が売れなかったとして損害賠償請求までされることになってしまいます。この辺りもかなりリアルな話でしょう。ところが、この不倫騒動、実は、別れた夫の仕掛けた罠だったんですね(韓ドラでよくありそうな、マクチャン的流れです)。夫の方が不倫していたわけです。しかも、ここに(これまた韓ドラに欠かせない)財閥が絡んできます。

そこで彼女は、元々TVリポーターという肩書きを持っていたため、マスコミ・メディアでの自らの経験値をフルに活用し、フンソクに対する復讐をネット配信や動画を使って、やり遂げようとするわけです。多分、SNSが強靭な力を発揮する今だから成立する復讐法であり、10数年前であれば、このやり方では完全にヘラは潰されていたでしょう。そう、このドラマの見どころはまさに"ここ"にあります。他の復讐ドラマとの違いが、その復讐法にあるわけです。圧力がかかっているマスコミを動かせないなら、自分で全世界に配信してしまえという、まさに現代の復讐方法と言えますね。

その一方、ドラマにはもう1つの別の流れがありまして......。ヘラを見守り続けてきた弁護士のミンジュンという存在がキーになります。彼は、ヘラを窮地から救う代わりに、ある復讐を彼女に依頼することに。そうなんです、さらにヘラは依頼人の復讐の代行まで始めてしまうんですね。ここでサブタイトルの「あなたの恨み晴らします」の意味が見えてきます。

はっきり言いますが、復讐レベルで言えば、このドラマ、それほど高くはありません。このドラマ以上に血まみれの復讐劇は韓国ドラマにいくらでもあります。なので、ドロドロのマクチャンドラマがお好きな方には、物足りなさを感じるかもしれません。それでも、僕が今回この作品を取り上げた理由は、その復讐の面白さよりも、メディアやSNSが、私たちの社会環境にいかに大きな影響を与えているのかを、このドラマが間接的に警鐘を鳴らしているところが面白く感じられたからなんです。メディアに身を置く僕が、そう感じるんですから、このドラマには、その点においてリアリティーがあるんです。なので、このドラマをカテゴライズするならば、復讐ドラマやマクチャンドラマというカテゴリーではなく、社会派サスペンスと表現した方が(個人的には)良いと思います。

主人公のヘラを演じているのが、大ヒットドラマ「シークレット・ガーデン」に出演していた韓国を代表する女優の一人、キム・サランさんですが、実年齢よりもはるかに若く見えるのが怖いくらい、とにかく可愛いんです(可愛さを売りにするドラマではないのですが)。そして、このドラマでいわゆる"韓ドライケメン枠"にいるのが、弁護士ミンジュン演じるユン・ヒョンミンさん。彼は「あいつがそいつだ」での好演でよく知られていますよね。これ以外にも、脇を固めるのがユン・ソイさん、チョン・マンシクさん、チョン・ウィジェさんといった実力派の俳優たちと、安心して見られる保証付き。

もちろん、一応"復讐モノ"ですから、代理満足というか爽快感は得られること間違いありません。ただ、その爽快感よりも「今の時代って、本当に怖いなぁ」っていう、ホラーの怖さとは違った、人間の怖さを巧みに描写しているドラマ前半に、個人的には見応えを感じました。OTT(配信プラットフォーム)向け作品として撮られた作品ではないので、恐怖描写に限界はありますが、それでも一気にその世界に引き込まれるのは、誰もがその当事者になる可能性があるというリアリティーがあるからではないでしょうか。