斎藤工が映画やドラマで見せる"魂むき出し"の演技――「麻雀放浪記2020」「BG」ほか

斎藤工が映画やドラマで見せる"魂むき出し"の演技――「麻雀放浪記2020」「BG」ほか

主役でも脇役でも、ヒーローでも悪役でも、どんな立場の役であっても、「この俳優が出ているなら見たい」と思わせる。そんな吸引力を持つ俳優の一人が、斎藤工だ。演技に対するストイックな姿勢は広く知られており、その芝居の引き出しも豊富だ。どんな現場でも、監督の期待を超えてくる。だが、斎藤は単に「演技がうまい俳優」ではない。彼は、自分の演技を「自分のうそ臭さと向き合って、いかに対処していくか」がテーマだと語っている。映画監督としても活躍する彼は、人間の輪郭が躍動する瞬間を映し出すには、魂をむき出しにするような演技が必要だと考えているのだ。

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「零落」
(C)2023浅野いにお・⼩学館/「零落」製作委員会

眼の演技一つで主人公の魂の漂流を体現!

2023年公開の映画『零落』で、斎藤はかつて売れっ子だったものの今は落ちぶれ、自堕落な生活を送る漫画家を演じた。原作である浅野いにおの同名コミックを読んだ感想として、斎藤は「浅野さんは、ご自身の中にある"内臓"をしっかり描いていると感じました」と語っていたが、その言葉通り、本作での彼の演技からも"内臓"が透けて見えるようだ。

連載は終了し、SNSでは容赦ない酷評が飛び交い、担当編集者とのズレは埋まらず、アシスタントからはパワハラを指摘される。そして、すれ違い続ける妻との関係も限界を迎えようとしている。まさに人生が漂流する中で、斎藤が演じる主人公の「眼」が圧倒的な存在感を放つ。魂が浮遊しているかのようなうつろなまなざし。その目から発せられる言葉はどれも乾ききっており、彼の全身からにじみ出る"内側の声"が迫ってくる。

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ドラマスペシャル「探偵物語」TELASAで見放題配信中
(C)赤川次郎/KADOKAWA・テレビ朝日・MMJ

芝居に対する誠実さと作品全体を見渡す力

2018年のドラマスペシャル「探偵物語」で、斎藤は松田優作主演の1984年公開映画のリメイクに挑んだ。松田優作は、斎藤が「最も好きな俳優」と公言する憧れの存在であり、オリジナルの『探偵物語』も特に思い入れの深い作品だったという。それだけに、「複雑な思いもあった」と語っている。それでも斎藤は、普遍的なテーマは時代を超えて継承されるべきだとの信念から、今の時代だからこそ描ける"現在進行形の探偵物語"を生み出したいという思いで作品に参加。結果的に、松田優作とは全く異なるタイプの主人公・辻山秀一像を作り上げた。原作者の赤川次郎もその演技を絶賛している。

斎藤が演じた辻山は、くたびれた中年男でありながら、どこか憎めないキュートさを漂わせる。かっこ悪さの中ににじむ、かっこ良さ。肩に力の入らない自然体の芝居が、うそ臭さのない魅力につながっている。こうした演技からも、当時既に彼が誠実に芝居と向き合っていたことが伝わってくる。

同年には「BG~身辺警護人~」で、木村拓哉演じる主人公・島崎章と並び立つ準主役・高梨雅也を演じた。斎藤は"受けの芝居"での巧みさを発揮し、島崎というキャラクターの存在感を引き立てている。作品全体を俯瞰(ふかん)しながら演技ができるのは、映画監督としての視点を持つ彼ならではの強みだ。その木村との共演は、2024年放送の「Believe-君にかける橋-」でも実現。斎藤は、木村演じる狩山陸の弁護士・秋澤良人を演じ、敵か味方か判然としない複雑な人物像を巧みに表現して、強い印象を残した。

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「漂着者」TELASAで見放題配信中
(C)テレビ朝日

記憶喪失の男から昭和の男まで、幅広く怪演!

斎藤は、複雑な人物像を演じることに長けた俳優だが、その真骨頂ともいえるのが、2021年放送の「漂着者」だ。彼が演じたのは、海岸に全裸で漂着した記憶喪失の男、ヘミングウェイ。正体不明で、彼の周囲では次々と不可解な事件が起こる。一歩間違えば滑稽になりかねない、極めて難解な役どころだ。しかし、斎藤はその突飛な設定にリアリティーを吹き込み、見る者に強烈な説得力を与えた。キリストを想起させる外見に、予知能力という超常的な要素。ミステリアスでありながらどこか人間的なヘミングウェイは、まさに斎藤にしか演じられないキャラクターといえるだろう。

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「麻雀放浪記2020」
(C)パンチとロン毛 製作委員会

一方、2019年公開の映画『麻雀放浪記2020』では、白石和彌(かずや)監督と初めてタッグを組んだ。1984年公開の同名映画を基にしてはいるが、斎藤自身が「リメイクというより"新装開店"」と語る通り、設定も演出も大胆にアップデートされた意欲作だ。この企画は、斎藤が10年越しで実現を願っていた作品でもあり、その熱意が画面からも伝わってくる。白石監督は斎藤について「想像以上に昭和を感じさせてくれる大和男児」と評し、彼の"昭和的エネルギー"に太鼓判を押している。実際、斎藤の熱演ぶりは、型にはまらない奔放さと濃密な存在感で見る者を圧倒した。

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「東京独身男子」TELASAで見放題配信中
(C)テレビ朝日

独身貴族も議員も、多面体の魅力を自在に操る

強烈な個性を放つ役柄を演じる一方で、2019年放送の「東京独身男子」のような華やかな"独身貴族"も自然にハマるのが、斎藤工という俳優の面白さだ。同作では、バツイチの審美歯科医・三好玲也を演じる。男としての自信をなくし、結婚に疲れた過去を引きずりながらも、子どもを望むようになる。そんな男の複雑な心理の揺らぎを、軽妙さと切実さを織り交ぜて表現した。また、2023年放送の「警視庁アウトサイダー」では、物語のキーマンとなる衆議院議員・小山内雄一を好演。表向きは悪役的な立ち位置ながら、物語が進むにつれ単純な"悪"ではないことが明かされていく。しかし、斎藤が演じると登場した瞬間から「何か裏がある」と思わせる説得力が生まれる――それが彼の強みなのだ。

脇役であっても印象に残るのが、名優の証。2021年の映画『騙し絵の牙』では、出番は少ないながらも、場面を引き締める絶妙な演技で存在感を発揮。ストーリーや主役を邪魔せず、物語の空気を整える"調律者"のような芝居ができるのも彼の魅力だ。まだまだ計り知れないポテンシャルを秘めた俳優・斎藤工から、これからも目が離せない。

文/渡辺敏樹

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