浜辺美波の芝居はとてつもない演技力で役が"人間"として描き出されていた
2024.10.02
人気実力共にトップクラスの女優といえば、確実にその中の一人に挙げられるのが浜辺美波だろう。
浜辺といえば、10歳で2011年に開催された「第7回東宝シンデレラ」オーディションでニュージェネレーション賞に輝いて芸能界入りし、同年公開の映画「空色物語『浜辺美波~アリと恋文~』」で、主演で女優デビューを果たす。そして、2015年のスペシャルドラマ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」で本間芽衣子を演じて注目され、2016年にはドラマ「咲-Saki-」でドラマ初主演。2017年公開の映画『君の膵臓をたべたい』で第42回報知映画賞新人賞、第30回日刊スポーツ映画大賞新人賞、第41回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、全国区に。その後は、主演やヒロインといったメインどころで出演作を彩っている。
そんな彼女の魅力は、"カメレオン女優"の一人として数えられても遜色ない多様さだろう。大型オーディションの合格者ということもあり、デビューからメインの役どころを演じてきたためなかなか名前が挙がらないが、実はどんな役でも、役ごとに陰陽のある芝居で人間的な深みを表現し、見事に3次元の人物として"生きて"いる。
例えば、映画『君の膵臓をたべたい』の山内桜良役では、明るく真っ直ぐで前向きな性格ながら、"余命わずか"という儚(はかな)さをまとって、役が心の奥底に秘めている恐怖心や葛藤、悲哀という感情を見る者に想像させる演技を披露。ゴーイングマイウェイのようで、いつも誰かに気を使っている可憐な女子高校生として息づいている。
(C)テレビ朝日・MMJ
また、ドラマ「アリバイ崩し承ります」(2020年、テレビ朝日系)の美谷時乃役では、もの静かで品のある若き時計店の店主でありながら、好奇心に駆られてアクティブな一面が出てしまうという人間らしさをまとって役に命を吹き込み、本格ミステリーという作品の柱にリアリティを肉付けしている。
一方、映画『約束のネバーランド』(2020年)のエマ役では、天真爛漫で子供っぽい性格ながら、自分よりも仲間を優先するが故に物事を一人で抱え込むという一面もあり、一度決めたらガンとして譲らない芯の強さを有するキャラクターを熱演。子供っぽさと、孤児院の弟妹たちに対する母性あふれる姿という二面性を見事に表現している。この二律背反したところを演技で説得力をもたらすことで、子供と大人のはざまの年齢の女性らしさを描いている。
ほか、映画『やがて海へと届く』(2022年)の卯木すみれ役では、明るく元気で誰もが惹きつけられる魅力を持ちながら、実は謎だらけでつかみどころのないミステリアスな女性を怪演。その他大勢に見せる顔とは明らかに違うが、本当の顔はどんなものなのかは知ることができないという謎めいたキャラクターを、抑揚のない口調や動きの少ない視線といった"引き算"の芝居で表し、「すみれの秘密は何だったのか?」という主人公の行動原理を、北極星のように照らし続けている。
(C) 2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会
これらのどれもが、相反するベクトルの"人間的な特徴"を同居させることで、"人間らしさ"をまとっている。演技というものは、どうしても演じる役のキャラクター性を際立たせるために特徴的な要素を前面に押し出しがちなのだが、それだけの一辺倒ではなく、しっかりと真逆の要素も演技に組み込んでいるところこそ、彼女の"カメレオン女優"性といえる。
今後も主役やヒロインとして数々の作品に出演するであろう浜辺。その彼女が、どのような表現を駆使して役を"人間"として描き出しているかにも注目していきたい。
文=原田健