ALSOK杯第75期王将戦インタビュー|藤井聡太王将・永瀬拓矢九段が語る戦略と意気込み
ドキュメンタリー 生中継インタビュー
2026.01.20
将棋の八大タイトル戦の一つで、75年の伝統と格式を誇る王将戦。頂点を争う七番勝負は持ち時間8時間の2日制で、全国を転戦しながら行われる。開幕第1局(1月11・12日)を皮切りに3月下旬までに全7局が予定され、どちらかが先に4勝した時点で決着となる。
藤井王将が5連覇を果たすのか、それとも2年連続で挑戦する永瀬九段がリベンジを果たすのか。開幕を前に、藤井王将・永瀬九段に王将戦に懸ける思いや、お互いの印象などを聞いた。
■藤井聡太王将インタビュー
現代将棋界の最強王者。王将戦5連覇に向けて精進に怠りなし
――今期の王将戦挑戦者決定リーグ戦についての感想をお願いします。
「私ももちろん、注目して見ていました。全体を通して見ると、やはり永瀬九段の安定感が非常に際立っていたかなと感じます。その中でも、永瀬九段と近藤(誠也)八段の一局は、近藤八段が攻める展開になりましたが、それを永瀬九段が非常に的確に受け続けて勝ち切ったという将棋で、永瀬九段の強さが非常によく出た一局だったと感じました。永瀬九段は最近ですと、攻めであったり、終盤の鋭さというのも非常に増しており、以前と比べて棋風という点でも積極性を意識されているように感じます。受けと攻め、どちらも考えられるような局面であっても、より踏み込む手を選ばれる傾向があるのかなと」
――昨年NHKで放映された藤井王将と羽生九段との対談番組。永瀬九段の「角換わり以外の将棋は木刀(ぼくとう)で、角換わりは真剣」という発言が話題になりました。
(※角換わりとは、対局の序盤で角が交換され、互いに持ち駒とする戦型。激しい戦いになりやすい)
「ははははは(笑)、私も永瀬九段の発言をスタジオで初めて聞きまして、非常に印象深かったんですけれど。角換わり、特に腰掛け銀は相居飛車の中でも一番定跡化(研究)が進んでいて。先手番の良さを一番追求するのであれば、やはり角換わり腰掛け銀が有力と見られているところはあり、私自身もそういった理由でよく指しているところもあります。永瀬九段は「真剣と木刀」と言われていましたけど(笑)。もちろん、例えば他の相掛かり(序盤で互いに飛車先の歩を突いていく戦型)であっても、激しい展開もありますし。私としては『そこまで違いはないかな』というのが正直なところではありますけど(笑)。でも非常に、永瀬九段の考え方がよく出た発言だったと感じます」
――藤井王将がこれまで最も多く対戦してきた相手が永瀬九段です。何度も対戦して、やりやすさ、あるいはやりづらさなど感じることはありますか?
「これまで練習将棋も含めて、永瀬九段とは非常に多く対局しています。永瀬九段の強さはよく理解しており、対戦数が多いからやりづらいということはありませんが、それだけお互い手の内を知っているところはあります」
――以前、永瀬九段は「藤井さんは私の薄いところを突いてくる」というような発言がありました。そういう意識はあるでしょうか?
「私としては、そんなに外そうと思って作戦を立てているわけではないのですが(笑)。ただ、永瀬九段は定跡に関する認識が本当に深くて、そのことをこれまでの対局を通してよく知っているので、それを踏まえて作戦を立てているところはあります」
――藤井王将はデビュー以来ずっと、2手目は飛車先の歩を突いていました。しかし昨年の王将戦第5局で、2手目に初めて角筋を開けた手が話題になりました。最近はそういう作戦の幅を広げているという印象があります。
「そうですね。私自身、昨年あたりから、少しずつそういうことを意識はしています。将棋界全体として序盤の作戦の精度が上がってきており、特に後手番のときに、毎回それを正面から受けると、けっこう厳しい戦いを強いられてしまうことも多かったので。それを踏まえて、自分の方からも少しずつ工夫を出していければというふうに考えています」
――先手番が少し有利ということは常に意識して研究されているでしょうか?
「数年前まではわりと『それほど変わらない』という考えだったんですけれど(笑)。最近はやはり以前と少し状況が変わってきたところもあって。実際、対局に臨む上でも先手と後手の差というのは、ある程度あるのかな、というふうには考えております。それは先ほどの作戦の工夫ということも少し関連はしていて、後手番がある程度不利であるとすると、自然に指すだけではなく、何かしらの工夫が求められるので。そうした点を踏まえて、先手番のときと、後手番のときの作戦を考えるところはあると思います」

――今年度は伊藤匠現二冠に王座戦五番勝負でタイトルを明け渡した以外は、ほとんど勝っており、勝率も現在8割に迫ります。藤井王将は最近のご自身についてどのように思いますか?
「先ほどの序盤の作戦面の取り組みについてはある程度、少し手応えも得られるような状況ではあります。一方で、王座戦もそうでしたが、終盤の指し手の精度が逆に、以前と比べて少し下がってしまっているのかなと感じる場面もあります。やはり序盤だけではなく、中盤、終盤も含めて、バランスよく力をつけていく必要があると痛感しています」
――2025年に永世竜王の資格(連続5期獲得)を得て、これで永世称号は3つ目になりました。王将戦では、永世王将を意識することはあるでしょうか?
「すみません。実は恥ずかしながら、各棋戦の永世称号の条件を正確に把握はしていなくて(笑)。永世称号はやっぱり、当然ながら長く活躍しないと、目指せるものではないと思います。そういう点で、すぐにそれを、それぞれの棋戦で意識する感じではないのですけれど。普段から実力を伸ばすために将棋と向き合い、その先にそういうものが見えてくればというスタンスで考えてはいます」
――王将戦は2日制の長丁場です。1日目の夜はどう過ごされているのでしょうか?
「状況によりますが、1日目の夜は、局面を先まで考えておく必要があれば、ある程度見通しを立てて、2日目に臨むということはあります。一方でまだ、本格的な戦いになっておらず、考えても先まで見通せないという状況であれば、局面のことを全く考えずに、しっかり休もうというときもあります(笑)」
――藤井王将にとって、王将戦七番勝負は今期で5回目です。
「王将戦の対局地は長年、同じ場所が多く、対局で伺うと温かく歓迎していただけるうれしさをいつも感じています。毎年伺うところであっても、少しずつ食事のメニューを変えていただいていることも多く、何か新作があると、気になります(笑)。私自身もせっかくの機会なので、やっぱり地元のものをいただけたらということは意識しています」
――藤井王将といえば鉄道員さんの姿での記念撮影が恒例となっています。
「私自身、鉄道が好きなこともあり、そういう体験は通常なかなかできないことなので、いつも貴重な機会をいただけて、感謝しております」
――藤井王将は、鉄道、地理について非常に詳しいことで知られています。例えば対局地の予定を見て、足を伸ばしてみたいなど、考えたりはされますか?
「対局のついでに少し足を伸ばしてというと、渡辺(明)九段などはそういった形でよく旅行されている印象はありますけど(笑)。私自身は対局となると、なかなかそこまでの余裕がないというのが正直なところで。タイトル戦でいろいろなところに伺えるのは楽しみの一つではあるので、私ももう少し余裕が出てきたら、そういった楽しみ方もできればな、とは思います」
――ファンの方へメッセージをお願いします。
「永瀬九段との対局では、いつも作戦に関して少しずつ工夫をしなければと感じており、王将戦でも、そういった工夫をお見せできればと思っております。またその上で、王将戦は持ち時間が8時間ありますので、中終盤も一手一手しっかり読みを入れて指すことができれば、面白い将棋にできるのではないかと思います」

■永瀬拓矢九段インタビュー
――今期の挑戦者決定リーグ戦を振り返って、いかがだったでしょうか。
「王将リーグは先手が3局、後手が3局で、バランスのよい棋戦で準備もしやすく、棋士の力が出やすい環境で、とても厳しいリーグだと思っています。私の1局目は、佐々木勇気さん(八段)との対戦でしたが、その将棋が(最終盤まで大熱戦で)どちらに転んでもおかしくありませんでした。その対局を乗り切ったことで勢いがついて、最後まで良い流れを作れたと思っています。伊藤二冠(対局時は叡王、現在は王座とあわせて二冠)とも内容の良い将棋が指せましたので」
――永瀬九段は以前から、相対的な強さを表す数値であるレーティングに言及されていますね。(非公式な集計ですが)現時点では藤井王将がトップで、永瀬九段、伊藤二冠、佐々木八段などが上位です。
「藤井さんや伊藤二冠は、レーティングをあまり気にされていないとおっしゃっています。個人的には明確な指標ですので、私は長年意識しています。伊藤さんのように、藤井戦でとても結果を残される方もいます。私の場合は、藤井戦以外の勝率が高い状況になっているので、棋力は上がっている感覚はあります。ただし今後、結果を求める上で藤井さんに対するうまいアプローチを考えていかないと、ちょっと厳しいところもあるのかな、とも思っています」
――永瀬九段は2025年の王将戦と名人戦で1勝4敗。王位戦で2勝4敗でした。名人戦のあと「以前よりは藤井名人の影が見えてきた気がする」という発言をされましたが、その実感は増した感じでしょうか?
「私の場合は3棋戦全て3連敗スタートでしたので、その後の楽しみ自体は少なかったんですが、後半の4局目で返して、5局目は必ず熱戦になっていたので、後半戦でこちらのギアが上がっていたのかな、と思っています。あるいは3局指して、藤井さんの剛速球に目が慣れてきたのかということなんですけど。伊藤さんが(藤井さんから)今回王座を獲ったときに、2勝2敗のスコアをまず作られている。どちらがタイトルを取るか分からない状況がやはり、ファンの方も手に汗握るのかなと思っているので。伊藤さんが拮抗したスコアを作られているのはとても尊敬に値しますし、すごいことだなと思います。私は基本的に全力を尽くすだけというスタンスです。ただ結果があまりにも...。レーティングは上がっているので、個人的には本当に、何も気にしてないんですけど。藤井さんと良い勝負をしたいというのは生涯の目標です。やっぱり藤井さんと他の方は全く違いますので。ただ藤井さんとたくさん指すためには、勝ち続けなければいけません」
――最近の永瀬九段の言葉で印象的だったのは、相性を認めるようになったと。
「例えば、ポケモンの属性みたいなものなんです。藤井さんがちょっと特殊な、フェアリーとか、かなり最近出た属性なんですよ。それに対して、伊藤さんは高い棋力を保持しながら、効果抜群の一撃を与えられる属性の攻撃を持ったのではないかと。私と藤井さんだと同じ属性という自覚があるので、レベル勝負になっています。伊藤さんの場合、けっこう急所に与えられる属性で、持っている力の倍の攻撃力を発揮している感じですかね。藤井さんの属性を私はちょっと見極められていないので、伊藤さんと同じハイドロポンプとか、そういう技を覚えるのがいいのかなと(笑)」
――藤井王将は相手に対して指し方を変えない「王道」というイメージですけれど、永瀬九段は「自分の薄いところを必ずついてくる」ということを言われていました。
「藤井さんは今まで(相手を念頭においての)戦い方は全く意識されていなかったんですけど、最近は戦い方も上手いんですよね。こちらの(序中盤の準備の)薄いところを突いてくるなと思います。ただ藤井さんからすると、そのつもりはないけど秘孔を突いている、みたいなことかもしれません」
――昨年NHKで放映された羽生善治九段と藤井王将の対談番組の中で、永瀬九段の「角換わり以外の将棋は木刀(ぼくとう)で、角換わりは真剣」という発言が話題になりました。
「藤井さんの爆笑が取れて、とてもうれしかったです。『あんなに笑ってくれるんだ』と(笑)。羽生先生も笑ってくださいましたし。あれはよかったです(笑)」
(編注:永瀬九段は2025年11月29日に放映された番組で次のように語っていた。「角換わり以外の将棋は木刀なんですね、私の印象は。角換わりは真剣、日本刀とか。そのぐらい違う印象で。だから木刀だと、一撃じゃたぶん勝負は決まらないんですが、角換わりだと一撃で決まってしまうんですね」)

――王将戦は2日制の対局です。永瀬九段が以前言われたのは、2日制と1日制は、やはり違うと。
「1日制ですと、王座戦もそうですけど、1分将棋になってどうなるか分からない。そういう楽しさがあると思うんです。持ち時間8時間の2日制で求められるのは、技術の高さなので。2日制ですと互いに高いパフォーマンスで将棋が指せるんです。その中で、どっちが勝つにしても押し切るという形になっているのかなと。1日制ですと形勢がよくても、藤井さんも伊藤さんも終盤がとても得意ですので、1分将棋で終盤のたたき合いというものがある。2日制ですと、私の技術がもう少し上がればそうなるのかもしれませんけど、現状そのケースは少ないのかなと。たたき合いがやはり1日制の醍醐味(だいごみ)で。2日制は技術の結集というものなのかな、と思うので」
――永瀬九段は以前、2日制で藤井王将と対戦すると、1日目でかなり疲れてしまうというようなことを言われていました。
「それは今は全くなくなりました。去年、かなり鍛えられましたので(笑)。あとはやはり、藤井さんと2日制を何局も盤を挟ませていただき、慣れたというか。やはり経験が少ないと藤井さんの体力値だったり、ずっと集中する力だったりとかに、対応できないというか、そういうところもあったかと思うんですけど。やはり回数を重ねて、こちらも目が慣れることで、1日目での疲労感などはなくなり、2日間を通して集中できるようになったかなと思います」
――王将戦は勝者の記念撮影など、独特の文化がありますね。
「王将戦の文化に触れるためには、勝たないと(笑)。触れ合いたいなとは思っているんですが、なかなか縁が少ないので。王将戦では現地で素晴らしい体験をさせていただいており、食事なども楽しみにしています。私は、おいしいものを食べるのが好きなので、おやつやお昼ご飯も、本当にご当地のおいしいものをいただけるので楽しみにしています。第1局の掛川ですと、いちご、キウイのフレッシュジュースが定番で、とてもおいしい。私はいちごが一番好きですので(いちごがシーズンを迎える)この時期に挑戦できて良かったなと思っています」
――食事やおやつの構想は練っていくんですか?
「事前に資料をいただける場合には、全て終局までの構図を描いて臨むということはあるんですけど。事前に情報がない場合は、現地についてから対応していくことになります。『これがおいしかったからリピートしてみよう』とか、また新しい手を指してみようか、と」
――これまでに印象に残った撮影はありますか?
「(大阪・高槻市の)山水館さんで、亀の甲羅の着ぐるみを背負わせていただいて、足湯につかっての撮影ですね。私は亀が大好きでして。撮影する場所はすごく寒くて、スタッフさんが一番大変だったと思うんですけど。(着ぐるみは実家に贈られて)もしかしたら家族が布団にしているかもしれませんが、今では家宝です(笑)」
――ファンの方へメッセージをお願いします。
「個人的には、下馬評としては、藤井さんに期待する方がたぶん、私のファンじゃない限りは9割5分ぐらいありそうだと思うんですけど。今の心境としては、ただただ全力でぶつかっていきたい。ぶつかったときに藤井さんが技術的に全てを受け止めてくれるであろうという、そういう心境で王将戦に臨みます。王将戦では、私が頼むおやつにも注目していただければと思います(笑)」

■今期王将戦の見どころ
若き王者・藤井王将に対して、充実著しい永瀬九段が2年連続で挑む今期七番勝負は、現在の将棋界における最高峰のカード。対戦成績は藤井王将がリードしているものの、対局はいつも拮抗した大熱戦となる。今シリーズをどちらが制するか最後まで目が離せない。
■藤井聡太王将(23歳)
2002年7月19日生まれ。愛知県瀬戸市出身。2016年、史上最年少14歳で四段昇段(棋士昇格)。2020年、史上最年少17歳で初タイトルの棋聖を獲得。2022年、19歳で王将など、数々のタイトルを獲得。2023年、王座獲得で将棋史上初の八大タイトル独占を果たす。王将戦は現在4連覇中で、あわせて竜王、名人、王位、棋聖、棋王の六冠を保持。タイトル通算32期(史上4位)。
■永瀬拓矢九段(33歳)
1992年9月5日生まれ。神奈川県横浜市出身。2009年17歳で四段昇段(棋士昇格)。2019年に初タイトル叡王を獲得。同年、王座も獲得し二冠に。王座は2022年まで4期連続で保持。通算タイトル獲得数は5期。今期王将戦挑戦者決定リーグは6戦全勝で挑戦権を獲得。王将戦七番勝負登場は2年連続3回目。将棋界随一の努力家として知られる。
取材・文/松本博文
写真:スポニチ/アフロ(藤井聡太王将) 写真:毎日新聞社/アフロ(永瀬拓矢九段) (C)囲碁・将棋チャンネル




