中国ドラマの星、ワン・イーボーの魅力──「陳情令」ブレークから、映画、ドキュメンタリーの軌跡を追う

2025.03.20

近年の中国ドラマブームを牽引する俳優の一人、ワン・イーボー(王一博)。ドラマ「陳情令(ちんじょうれい)」でブレークし、近年では映画にも進出。2024年には主演映画3本が立て続けに日本上陸と、アジア作品としては異例ともいえるヒットを飛ばしている。こうも日本の観衆を惹きつける彼の魅力はどこにあるのだろうか。

■「陳情令」で世界的にブレーク

「陳情令」はBL小説『魔道祖師(まどうそし)』(墨香銅臭・著)を原作とし、そのBL要素を「誰よりも深く理解し合える相手 "知己(ちき)"との絆」と大胆に読みかえて制作されたブロマンスドラマだ。重厚なストーリー、圧巻の映像美、そして想像をかき立てる余白は、中国国内のみならず各国の視聴者も魅了し、「中華ブロマンス」という一大ジャンルを打ち立てた。

その「陳情令」の主人公の一人・藍忘機(ラン・ワンジー)役を務めたのがワン・イーボーである。藍忘機の美形一族出身で、他者にも自身にも厳しいという役どころが、ワン・イーボー本人の個性、中でもストイックさとマッチ。寡黙(かもく)な藍忘機は言葉こそ少ないが、微細な目の動きや仕草により知己・魏無羨(ウェイ・ウーシエン / シャオ・ジャン演)への思いが鮮やかに浮かび上がり、視聴者の心を大いに揺さぶった。

ワン・イーボー自身も口数は少ないそうで、(本人によると「人見知り」だそう)そのためか寡黙な役が抜群に似合う。しかし続く「有翡(ゆうひ) -Legend of Love-」では一転、よく笑い、よく喋る謝允(しゃいん)を、「風起洛陽～神都に翔ける蒼き炎～」では、普段はクール、しかし美食にかけては饒舌になるオタク気質が垣間見える百里弘毅(ひゃくりこうき)を好演。作品の度に、「次はどんな顔を見せてくれるのか」とファンを釘付けにしているのである。

どんな役も、持ち前の真面目さでものにしてしまうワン・イーボー。そのストイックさはキャリア早期から見て取れる。彼は13歳だった2011年にダンス大会で入賞し、芸能事務所の練習生となって、のちに渡韓。厳しいトレーニングを経て2014年に中韓ボーイズグループ「UNIQ」のメインダンサー兼リードラッパーとしてデビューした。それだけでも相当な努力が想像できるが、その後、演劇系大学卒の俳優がひしめく中国芸能界で研鑽を積み、トップスターへと上り詰めたのだ。彼が努力の人であると評価されているのも納得だろう。

■異色のキャリアを活かして映画でも活躍

2024年にはスパイ・ノワール映画『無名』、空軍のテストパイロットに焦点を当てた『ボーン・トゥ・フライ』、ブレイキンに青春をかける青年たちを描く『熱烈』が立て続けに日本で公開。

『無名』ではW主演のトニー・レオンから「素晴らしいプロ意識」と絶賛され、『ボーン・トゥ・フライ』は「メカを愛する俳優に演じてほしい」という監督の思いを背負って、プロのバイクレーサーのキャリアを活かしてリアリティーある映像に寄与。そして『熱烈』では原点であるダンスで観客を大いに魅了した。

ちなみに『ボーン・トゥ・フライ』のクランクアップから、『熱烈』のクランクインまではわずか14日間ほどだったと伝えられている。短期間で、筋骨隆々の軍人から下町の青年へと肉体改造を成し遂げたことは「さすがだ！」と中国で話題になった。

■ドキュメンタリーで見せる新境地

持ち前のストイックさで入念に役を作り上げ、観衆を期待以上の没入感に誘う。それが俳優ワン・イーボーの大きな魅力だろう。2025年もすでに複数の作品が上陸しているが、ここで注目したいのが異色のドキュメンタリー「探索新境」である。熱帯雨林や雪山などの大自然に挑むワン・イーボーを追った作品なのだが、同作のチェン・アル(程耳)監督によると、番組の趣旨はスターによる自然探訪ではなく、「若者が大自然と向き合ったとき、どう変化するのかを追ったドキュメンタリー」であるという。映像には雄大な自然を前に、驚き、笑い、そして監督との対話の中で過去と未来を見つめるワン・イーボーが映し出されている。ドラマや映画に登場するワン・イーボーは彼が作り上げた一種の「完成形」だ。今、「完成」に至る過程を追ったドキュメンタリーが現れた。ワン・イーボーの魅力をより深掘りできるに違いない。

文／沢井メグ

「ワン・イーボー：探索新境」は女性チャンネル♪LaLa TVにて4月6日(日)より放送開始。