アメリカ大統領選挙が世界と日本に与える影響【ジョン・キング(CNNアンカー)】

アメリカ大統領選挙が世界と日本に与える影響【ジョン・キング(CNNアンカー)】

受賞歴もあるアンカーで、CNNのアメリカ政府およびアメリカ政治に関する報道に欠かせない存在、ジョン・キング。AP通信社に12年間在籍した後、1997年5月にCNNに入社。これまで全米50州、70カ国以上で取材経験を持つ。CNNでは「インサイド・ポリティクス」のアンカー(メインキャスター)を務めたほか、10年間ホワイトハウスを取材し、イラク戦争や9.11などを報道している。

2024年の大統領選挙では、アメリカ国民の視点から選挙戦を取材することを目的とするプロジェクトを率いるほか、討論会、予備選挙、全国党大会、選挙当日など、CNNの主要イベント報道において重要な役割を果たしている。また、2008年に初めて導入されて以降、CNNの選挙報道の目玉にもなっている「マジックウォール」と呼ばれるタッチパネルスクリーンを駆使して、大統領選報道を率いている。

そんな彼に、カマラ・ハリス副大統領(民主党)とドナルド・トランプ前大統領(共和党)によって争われ、11月5日(火)に投票が行われるアメリカ大統領選挙について聞いた。

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――今回の選挙のポイントは?(今回の大統領選の全体像も教えていただけますか)

「現職大統領と前大統領の二択だった選挙戦が、今では全く異なるものになっています。ハリス副大統領への候補者交代は民主党に活気を与え、選挙戦を一層拮抗(きっこう)させています。現政権の実績は、特に経済政策と移民問題において、依然として大きな争点となっています。トランプ前大統領の性格と民主主義に対する姿勢も大きな問題です。国際社会におけるアメリカの立ち位置は極めて大きな課題であり、トランプ前大統領とハリス副大統領は、同盟関係、貿易、政治色などの国際的な課題などに関してまったく異なる見解を持っています。民主党全国大会も終わり、全米の世論調査でも激戦州の世論調査でも、選挙戦は非常に拮抗しています。米議会の主導権も不安定な状況にあり、大統領選の結果によって大きな影響を受ける可能性が高いでしょう」

――長年大統領選挙を取材していらっしゃいますが、雰囲気など、選挙そのものが変わったと感じられることはありますか?

「私にとって今回が10回目の大統領選挙になりますが、民主党と共和党の各政党が互いに差別化しようとする点においては変わりありません。分断や二極化は決して新しいものではなく、1990年代後半ごろから既に見られていました。しかし、その激しさは今や極端なものになっています。税金や支出をめぐる慣習的な論争は今でも存在しますが、トランプ前大統領の人間性というものによってその影は薄くなっているようにも見えます。加えて、民主党はターゲットとする有権者らにとって中絶問題が重要な動機付けになると考えています。また、トランプ前大統領は何の根拠もなく、選挙プロセスの公正性への疑いを吹聴していますが、これはアメリカの政治文化にとって劇的な変化といえます。今選挙を予測できなくさせているのは、終盤での民主党の候補者交代劇です。これは民主党内に大きな興奮を引き起こしましたが、問題は選挙戦最後の数週間までその興奮を維持できるかどうかでしょう」

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――トランプ前大統領、あるいはハリス副大統領が当選した場合、アメリカにもたらされる影響はどのようなものになるでしょうか?

「トランプ前大統領の勝利が起こしうる影響はあらゆる面で甚大です。減税や貿易関税など、彼の経済政策は、現政権のアプローチとはまったく異なります。外交政策についても決定的な違いがあります。彼は自分に対する刑事事件の終結を命じるでしょう。また彼は、不誠実とみなした官僚を解雇することも約束しています。 トランプ前大統領の復帰を望まない有権者にとっては、政策の問題以前に衝撃となるでしょう。

ハリス副大統領が勝利した場合、その歴史的な意味合いから、オバマ元大統領再選時のように政策を熟慮する期間が訪れるでしょう。しかしながら、当時と現在は大きく異なります。トランプ前大統領はハリス副大統領の勝利の公正性と正当性に異議を唱える可能性が高く、再び2020年のような分裂と不安を生む可能性があります。ハリス副大統領は現行のバイデン大統領の政策に賛同しているため、政策の転換は微妙なものになるでしょう。しかし、投票権や女性の権利についてはハリス副大統領の優先的政策事項となるでしょう」

――大統領選挙の結果によって、アメリカが世界に与える影響についてどう思われますか?特に日本にはどのような影響が予想されると思われますか?

「トランプ前大統領が勝利した場合、NATO、EU、ウクライナへの支持は疑問視されるでしょう。一方、ハリス副大統領の場合はこれらの面は比較的には継続されるでしょう。中国に圧力をかけるバイデン大統領のアプローチは、経済・安全保障問題で日韓と協調して取り組む努力を含め、ハリス副大統領の下でも継続されるでしょう。

トランプ前大統領は、アジアに関しては不確定要素となるでしょう。彼は、習近平国家主席や金正恩総書記との1対1の関係性は有効なものであった考えています。日本を含む米国の長年の同盟諸国は、トランプ前大統領の政策下ではしばしば不意を突かれたように感じてきました。簡単に言うと、『比較的安定した関係性』か『予測不能な関係性』の違いでしょう。

特に日本に関しては、ハリス副大統領はバイデン大統領のアプローチを引き継ぐことになるでしょう。バイデン大統領は、日本は経済や安全保障の面において重要なパートナーであり、意見の相違が避けられない場合は慎重かつ丁寧に対処すべきという、数十年にわたる二党共通の合意を踏襲してきました。安倍元首相が経験したように、トランプ前大統領のアプローチは予測不能です。安倍元首相はゴルフとトランプ前大統領のやり方に合わせることが、安定的で深い関係性をもたらすと期待し、それは時にうまくいきましたが、何度も不意を突かれ失望させられていました」